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ラッシャー貴子|イギリス

アガサ・クリスティが愛したデヴォンの別荘、グリーンウェイ・ハウス前編 近くて遥かな道のり

アガサ・クリスティが遺した別荘、グリーンウェイ・ハウスの建物は、18世紀に建てられたジョージアン様式の白亜の邸宅だ。見学するだけでなく、前庭でピクニックしてくつろぐ人も多かった。筆者撮影

ロンドンで親しくしていた友人夫妻が引っ越して以来、この3年ほど夏になるとデヴォン州に遊びに行っている。州都エクセターまでは、電車ならロンドンから西に約2時間の距離だ。

デヴォンは風光明媚なところだ。北と南には青の濃い海と美しい海岸線があり、ダートムア国立公園には手つかずの自然が広がっている。コロナ禍以降は友人のような都市部からの移住者や別荘を持つ人が増えたそうで、行くたびに、海辺の小高い丘に新しい現代風な家が増えているのがわかる。

友人の引越し先がデヴォンと聞いてまず思い出したのが、作家アガサ・クリスティ(1890 - 1976)のことだった。名探偵ポワロやミス・マープルを生み出し、世界中で愛されるミステリの女王だ。デヴォン生まれのクリスティは生涯の大半をここで過ごした。

わたしがクリスティの『ABC殺人事件』を読んだのは小学生の時だった。映画館でのシーンが怖くて、それから長い間1人で映画館に入ることができなかったほど衝撃を受けたものの、作品はその後も読み続け、新旧含めて映画やドラマもずいぶん観ている。読者をあっと(たまに「ずるい!」と)言わせるトリックも魅力的だけれど、当時の英国の風習や複雑な人間模様を読むのが好きで、犯人がわかっているのに同じ作品を何度も読み返している(犯人を忘れてしまうこともある!)。

ロンドンの友人、知人は、どの国の出身であっても、クリスティのことはたいてい知っている。さすが、作品が100以上の言語に翻訳されている大人気作家だ。これまでの経験では、英語を母語とする人は10代の頃に読んだと聞くことが多いので、軽めの読みものという位置付けなのかなと思っている。


newsweekjp_20250823140637.jpegトーキーの町に置かれた、微笑みを浮かべたクリスティの胸像。ゆかりの地をめぐるクリスティ・トレイルに沿ってこの町を歩くと、ミステリの女王の足跡をたどることができる。筆者撮影

クリスティはデヴォンの温暖な海辺の町、トーキーで生まれた。当時のトーキーは、イングリッシュ・リビエラと呼ばれて栄えた保養地。簡単に海外に出られるようになって当時のにぎわいは失ったものの、今も町に残る優雅な建物やアールデコ風の家、海辺の遊歩道を目にすると、まるでポアロやミス・マープルのドラマを見ている気分になる。それにクリスティはこの町をイメージして数々の作品を書いている。
ファンとしてはそれだけで心が躍るけれど、わたしはトーキー郊外にある別荘、グリーンウェイ・ハウスにとても興味があった。クリスティが家族と休暇を過ごし、「世界でいちばんすてきなところ(The loveliest place in the world)」と呼んで愛した家だ。

Profile

著者プロフィール
ラッシャー貴子

ロンドン在住15年目の英語翻訳者、英国旅行ライター。共訳書『ウェブスター辞書あるいは英語をめぐる冒険』、訳書『Why on Earth アイスランド縦断記』、翻訳協力『アメリカの大学生が学んでいる伝え方の教科書』、『英語はもっとイディオムで話そう』など。違う文化や人の暮らしに興味あり。世界中から人が集まるコスモポリタンなロンドンの風景や出会った人たち、英国らしさ、日本人として考えることなどを綴ります。

ブログ:ロンドン 2人暮らし

Twitter:@lonlonsmile

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