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England Swings!

ラッシャー貴子|イギリス

アガサ・クリスティが愛したデヴォンの別荘、グリーンウェイ前編 近くて遥かな道のり

今回使ったルートでは、まずトーキーからバスか電車でペイントンという町に出ることになる。この日は実は微熱があったのでタクシーに乗ってしまったけれど、駅にさえ出てしまえば電車で5分の距離だ。
ペイントン駅からの蒸気機関車は片道30分ほど。海沿いを走ったり、道端の人に手をふられたりして、楽しい汽車の旅だった。蒸気機関車に乗るのは人生で初めてだったので、ホームに集まってきた子どもたちと一緒になって燃え盛る石炭やもうもうと上がる蒸気をながめた。

客車にはコンパートメント席もあってまた興奮した。ポワロやミス・マープルがよく乗っている、小部屋に3人ずつ向かい合って座る、あれだ。今ではすっかり見なくなったけれど、初めて英国に旅行した頃にはまだ残っていたことを思い出した。

キングスウェアまで乗ったDartmouth Steam Railwayのインスタグラム投稿より、高架橋を走る蒸気機関車の動画。汽笛が本当にぽっぽーと鳴ることも、白いジャケットにうっすら黒いすすが付いたことも感激で、あっという間の30分だった。

汽車でキングスウェアに着いたら、すでに見えている対岸のダートマスまで地元の渡し船でダート川を渡る。これが5分くらい。乗り場は駅のすぐ近くなのに初めわからず、焦って地元の人にたずねると、のんびり親切に教えてくれた。この辺りはどこもそうで、あわただしい都会生活をちょっと反省した。

歴史あるダートマスの港からは、その名もクリスティ・ベル号というフェリーでいよいよグリーンウェイに向かう。約30分の乗船中、高台にある海軍学校の立派な建物や、先ほど汽車で渡った高架橋をながめることもできて、観光気分が盛り上がった。


このフェリーを運行するGreenway & Dittisham FerryVimeo動画。ダートマスから別荘までの道のりがよくわかる。後半に出てくる小さなボートは、グリーンウェイの船着場から対岸までの渡し船。21世紀の今も、小さな鐘を鳴らして船を呼ぶのどかなシステムだった。

こうしてやっと船着場に着いた後も、お屋敷の入り口までは、ほとんど山登りのような緑の坂道を上ることになる。10分ぐらい歩いて息も上がってきたところで入り口が見え、やっと到着。おつかれさま。

newsweekjp_20250823142451.jpeg船着場からグリーンウェイまでの道。写真はあまり険しくない道だけれど、途中はほとんど山登りのようだった。でも杖をついたおじいさんも歩いていたので、ゆっくり行けば大丈夫。筆者撮影

車なら30分で行かれるところ、この日は待ち時間を含めて2時間以上かけたことになる。けれどおかげでクリスティの時代に戻ったようなのんびり旅が満喫でき、はるばるやって来た気分になれて嬉しかった。調べてみると、クリスティ自身、愛する別荘には車で行くこともフェリーを使うこともあったようで、2回の訪問で両方を経験することができたのも満足だ。

こうして汽車と船と自分の足でやってきたグリーンウェイ。次回はいよいよ邸内と広いお庭を見学します。

今日のおまけ

デヴォンをはじめ英国でのクリスティの軌跡をたどるのに、『アガサ・クリスティを訪ねる旅 鉄道とバスで回る英国ミステリの舞台』(平井杏子著、大修館書店、2010年)にとてもお世話になった。2010年刊行なので、事情が変わっているところも一部あるけれど、英文学者である著者が自らの足で歩いた記録なのでとても詳しく、圧倒されるほどの情報量は中身も濃い。クリスティの年譜が載っていたり、作品との関連を教えてくれたりするのもファンとしては楽しく、ありがたかった。英国でクリスティ巡りをしたい方、おすすめです!

 

Profile

著者プロフィール
ラッシャー貴子

ロンドン在住15年目の英語翻訳者、英国旅行ライター。共訳書『ウェブスター辞書あるいは英語をめぐる冒険』、訳書『Why on Earth アイスランド縦断記』、翻訳協力『アメリカの大学生が学んでいる伝え方の教科書』、『英語はもっとイディオムで話そう』など。違う文化や人の暮らしに興味あり。世界中から人が集まるコスモポリタンなロンドンの風景や出会った人たち、英国らしさ、日本人として考えることなどを綴ります。

ブログ:ロンドン 2人暮らし

Twitter:@lonlonsmile

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