
ドバイ像の砂上点描
日本との違いは恋柱!?ドバイで劇場版『鬼滅の刃 無限城編』公開!

■ドバイで劇場版「鬼滅の刃 無限城編」公開
日本に遅れること約2ヶ月、当地ドバイでも『劇場版「鬼滅の刃」無限城編 第一章 猗窩座再来』が公開された。
上映館数は、人口約1,200万人のUAEにおいて47館と、気合が入っている。しかもドバイモールのような大型シネコンでは複数スクリーンで上映しているため、スクリーン数で数えると更に増える。
公開日は9月11日(木)だったのだが、初回上映はなんと日付が変わった0時キッカリ。「平日ド真ん中の深夜0時に?」なんて思うなかれ。予約状況はこの通り。グレーは既に埋まった席だ。最終的には、首が痛くなりそうな端を除き、全ての席がしっかり埋まった。
■深夜に駆けつける「本気」のファンたち
上映時間が迫る10日(水)の深夜23時45分ごろ。映画館があるショッピングモールは閉店作業に追われ、一般の買い物客たちは出口へ向かう。そんな中、同胞と思しき人たちは映画館にスイスイ吸い込まれていく。行き交う人々を眺めていると「あっ、この人はきっと映画館に入るぞ」と察知できるのがなんだか面白い。翌朝は学校や仕事があるだろうに、全くみんな何をやっているのだ。(かく言う私も、そう思われているに違いない。)
深夜0時の初回上映に集まった客層を見てみよう。
約3割はカンドゥーラ(日本人が石油王ファッションと呼んでいるあの白い民族衣装)を着た現地UAE人男性。アニメ好き、且つ夜更かし好きの面々だ。その他、中東系の男女が4割、欧米系1割、インドなど南アジア系1割、東南アジア系1割、そして私日本人が1名といったところである。
年齢層は20代〜30代がメイン。夜が明ければ子供たちも来るのだろう。
■イスラム圏とコスプレ
コスプレをしたファンの姿もあった。私が見かけた範囲では、全身、小物類までしっかり作り込んだコスプレは炭治郎3名、禰豆子2名、胡蝶1名、冨岡1名。羽織柄の服を着た人は、善逸3名。キャラやロゴがプリントされた洋服を着た人は数えきれなかった。
正直に言うと、この記事に載せられるよう、本格的なコスプレをした方に写真を撮らせてほしかったのだが、ことごとく断られてしまった。特に女性は宗教上の理由もあるのだろう。かつて第一回サウジ・アニメエキスポに参戦したとき、暗幕をがっちり引いた中でコスプレ大会が開催されていたことを、ふと思い出す。
ちょっぴり残念だと思ったが、考えてみれば、彼らこそコスプレの本来の楽しみ方をしているのかもしれない。誰かに見せるためではない、バズるためでもない。自分が好きなキャラクターになりきること。それ自体を、満喫しているのだ。
■イスラム圏と恋柱の衣装
日本のアニメ作品を中東・イスラム圏で上映するにあたって心配されるのが、宗教的配慮。今回の無限城編では、ひとつの修正が見られた。
恋柱、甘露寺蜜璃の衣装である。
通常、彼女は胸元が大きく開いて、谷間を露出した衣装を着ているのだが、こちらでは違っていた。黒い隊服は、日本と同様に胸元が大きく開いた形で着用しているのだが、その下に着ている白いワイシャツは、上までボタンをきっちり締めるという形。胸元どころか喉元までしっかり覆われている。
今回、恋柱の登場シーンは少なかったため、正直ほとんど気にならなかったのだが、「ゲスめがね前田」の企みはイスラム圏には通用しなかったようである。
■ドバイでアニメ映画を上映すると、こうなった
映画の音声は日本語。字幕は、英語とアラビア語の二か国語。(画面下部に2行並べて表示されている。)上映館によっては、字幕は英語のみ、アラビア語なしのところもあるそうだ。
字幕を眺めていて少し意外だったのが、「腹を切った!」の英語字幕が「Seppuku!」であったことだ。「えぇ...?それでいいの...?」と思ったが、切腹はよく知られた日本語で、そのまま通じるのだという。
海外映画館あるあるの「観客がよくリアクションをする」こと、これはドバイにも当てはまる。善逸がカッコ悪く駄々をこねて泣いているシーンや、伊之助が案内役のカラスをせっついているシーンでは笑いが起こった。これらのシーンなら分かる。しかし、炭治郎が猗窩座に刀を掴まれて慌てる場面など、日本人なら笑わないシーンでも笑いがおきており、ツボが違うことに気付かされた。
また、私は実は映画上映中、盗撮を心配していたのだが(ドバイの映画館では本当に頻繁に見かける)、今回ばかりは本当にマナーが良かったことが感慨深い。わざわざ深夜0時の初回上映に駆けつけるほどの「精鋭たち」だったからなのかもしれない。
(下の画像は「無限列車編」公開時。当時は盗撮が本当にひどかった。)
■大人たちのアニメの楽しみ方
アニメの楽しみ方のひとつ、関連グッツ集め。子どもがおもちゃや人形を買い求めるのに対し、大人の男性陣は、日本刀という要素に心惹かれるようだ。
話を聞いていると、「鬼滅の影響で、日本旅行のルートに刀剣類の博物館を組み込んだ」という人もいるし、筆者の友人には「玉鋼を使った日本の高級腕時計を購入した」という人までいる。「まぁ、僕の腕に付けても色が変わらなかったけどね!」なんて冗談を添えて。(鬼滅の作中では持ち主の適正によって玉鋼の色が変わるという描写がある。)
いくつになっても男子は刀を振り回すのが好き...失敬、これは別の作品だ。
鬼滅愛、アニメ愛が旅行という形で発露するケースは珍しくなく、今回映画館で話しかけた人の中にも複数名、日本旅行を計画している人がいた。
炭治郎がプリントされた洋服を着たUAE人男性は「来月2週間、日本に行くよ。初めてなんだ。この映画の中にあるような建物や風景を見られたらいいな」と興奮気味に話す。
もう日本に4回行ったことがあるというUAE人男性は「今年の冬にまた行くよ。いつか京都に家を買うのが夢なんだ。ところで、飛行機でドバイに持って帰れる模造刀って、どこで買えるか知らないか?」と日本語りが止まらない。
アニメをきっかけに日本を熱烈に愛する旅行者が、今日もどこかで増えているのかもしれない。
■『タコピー』から『チ。』まで。アラブの止まらぬアニメ熱
中東における日本のアニメ作品の人気の高さはわざわざ紹介するまでもないだろう。鬼滅以外にも『呪術廻戦』(JJKと略称で呼ぶ)や『ONE PIECE』、過去作だと『NARUTO』『進撃の巨人』などの人気は常識レベルだ。来月には『チェンソーマン』の映画も控えている。
最近は『タコピーの原罪』『チ。』なども話題に登る。みなさんが想像する「いわゆる石油王ファッション」のUAE人たちが「タコピーは◯話が面白い」だとか「チ。こそ傑作!途中離脱すべきではない」だとか話しているのはちょっと面白く、そして誇らしい。
マンガ原作を読む人の数は、アニメを見る人の数に比べると、ガクっと少ない。しかし、言い換えると、原作で楽しむ人はそれはそれは強いファンだ。ドバイでは英訳されたコミックスが発売されており、鬼滅に関しては本編全23巻に加え、外伝、鬼滅学園まで入手可能である。
昨今は『俺だけレベルアップな件』に代表されるような海外勢も高いクオリティで人気を博しつつあるが、アニメ・マンガ産業において、日本は今後も他国の追随を許さない地位であってほしいと願わずにはいられない。世界各地で歴史的な興行成績を叩き出している鬼滅の刃、当地ではどれほどの旋風を巻き起こすのか。自らも再度劇場に足を運びつつ、見守っていきたい。(今のところ2回鑑賞済み。)

- Mona
アラブ首長国連邦ドバイ在住。東京外国語大学卒。日系ベンチャー、日系総合商社、湾岸系資本の現地商社等での勤務経験を元に、雑誌・ラジオ・Web媒体でドバイ現地情報や中東ビジネス小話を発信中。「地に足のついた」ドバイ像をお届けする。ドバイ在住11年目。ペルシア語使い。
Twitter:@Monataro_DXB