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平野美紀|オーストラリア

ボンダイビーチ銃乱射テロ事件、ほとんど報道されないローカル事情

日曜日以来、オーストラリアでは、ボンダイビーチのテロ事件のニュース一色…(豪ABCニュース 公式YouTubeより)

12月14日 日曜日の午後、いつもは平和なシドニー東部の美しいビーチが一転、凄惨なテロ事件現場となってしまった。

シドニーで、いや、オーストラリアで最も有名なビーチでもある「ボンダイビーチ」で行われていたユダヤのお祭り「ハヌカ」というイベントを狙ったとされる無差別銃撃事件。イスラム教徒とされる2人の男が、イベントに集まっていた数百人(一部の報道によると、イベントに集まっていたのは約1,000人)に向けて発砲。十数人が負傷し、実行犯の1人を含む15人が死亡した。

ボンダイビーチで起こった銃乱射テロ事件の詳細を伝えるまとめニュース。(豪ABCニュース 公式YouTubeより)

この事件については、世界中のメディアが一斉に報道したので、ご存じの人も多いかと思うが、なぜ、ボンダイビーチでこんな事件が起こってしまったのか... そう思っている方も多いのではないだろうか?そこで、(とくに)日本ではほとんど取り上げられていないと思われるローカルな事情をいくつか挙げてみたい。

オーストラリアの銃規制

この事件の一報を聞き、「オーストラリアで銃乱射?オーストラリアって銃規制あったんじゃなかったっけ?」と、真っ先に思った人も多いのではないかと思う。たしかに、今は米国のように銃が簡単に手に入る環境ではないが・・・

オーストラリアで起こった銃乱射事件は、今回が初めてではない。

1996年4月28日にタスマニア州のポートアーサーという町で、23人が負傷、最終的に35人が死亡するという痛ましい銃乱射事件が起こったのだ。そして、この事件が、オーストラリアにおける銃規制法を根本から変えることとなった。

新たな銃規制法制定の後、すべての州と準州において、自動装填式ライフルと自動装填式散弾銃の合法的な所有と使用の制限に加え、レクリエーション射撃による合法的な使用に対しても規制を強化した経緯がある。

よって、日本同様、個人が簡単に銃を入手することは困難だ。

今回のボンダイビーチでの事件は、ポートアーサーの事件に次ぐ、豪州史上2番目に死者数の多い銃乱射事件となり、現行の銃規制への不満が高まっている。

ユダヤを狙った犯行が、なぜボンダイビーチで起こったのか?

アルバニージー豪首相は、「これはハヌカの初日にユダヤ人を狙った意図的な攻撃だ」と述べたが、世界的に有名なボンダイビーチで、こうしたユダヤのイベントが行われたのには理由がある。

ボンダイビーチを含む、シドニー東部の「イースタン・サバーブ」と呼ばれる地区は、昔からユダヤ系住民が多い土地柄だ。2016年に行われた国勢調査によれば、イースタン・サバーブの地区内でも、ボンダイビーチのある北部にニューサウスウェールズ州全体の約半数が集中し、最大のユダヤ系コミュニティを形成している。(参照

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シドニー圏のユダヤ系人口の分布図。ユダヤ系の人が住むエリアを薄紫~濃青で色分け。青色が濃いほど人口が多いことを示しているが、ボンダイビーチを含む「イースタン・サバーブ」地区は、シドニー湾の南側の海沿いに位置する最も濃い青色の2つのエリアだ。

そして、南半球最大のシナゴーグと言われるオーストラリア最大のユダヤ教会堂「セントラル・シナゴーグ」は、ボンダイジャンクションにある。

newsweekjp_20251218041622.png

ニューサウスウェールズ州でみても、ユダヤ系人口の約半数(46.8%)がボンダイビーチのある「イースタン・サバーブ」の北側に集中。イースタン・サバーブの南側も含めると60%を超える。

そのため、ボンダイビーチでは(ガザ地区問題もあって)、事件が起きる前から週末などにイスラエルの旗やパレスチナの旗を振りかざしながら、大衆に向けてスピーチする人たちが現れ、ちょっとした小競り合いや衝突があったりしたのも事実だ。

犯人(容疑者)像

銃を乱射した男2人は、父子(父=50歳、子=24歳)とされ、警察官による狙撃で、父親は死亡。子は意識不明の重体となっていた。水曜日に意識を取り戻したというが、まだ事情聴取には至っていない。

この親子は、初期報道では、イスラム教徒のパキスタン人であると報道されたが、その後、父親はインド国籍、子はオーストラリア国籍であることが確認され、父親は、 1998年に学生ビザでオーストラリアへ移住(その後、2001年にパートナービザに変更)したことを、当局が発表。

また、今年の11月1日に、父親がインドのパスポート、子がオーストラリアのパスポートでフィリピンに入国し、IS(イスラム国)の反乱が続いているミンダナオ島のダバオに28日間滞在した後、オーストラリアへ戻ったことを、フィリピン当局が確認したことも判明した。

未然に防ぐことができなかったのか?

今回の事件で使用されたのは、銃クラブの会員として父親が所持していた6丁の『認可済みの銃』である可能性が高いという。

また、息子は、10代からイスラム過激派の説教者ウィサム・ハダッドを信奉していたことから、2019年から豪当局にマークされていたというが、「差し迫った脅威ではない」と見過ごされてきたこともわかった。

事件直後、警察が彼らの車の中からISの旗と手製爆弾を発見し、爆発物処理専門ユニットが出動。撤去したと発表された。もし、これらが爆発していたら、さらなる被害がでていたことは明らかだ。

今回の事件では、要注意人物としてマークされていながら見過ごされてきたことや、銃クラブの会員であるにしても1人に6丁もの銃保有を認めていたことに対し、当局への批判が強まっている。

民族的な居住エリアやビザの発給を含む入国管理の問題、銃規制法など、悲劇の裏にはこの国ならではの事情も関係しているかもしれない...〈了〉

 

Profile

著者プロフィール
平野美紀

6年半暮らしたロンドンからシドニーへ移住。在英時代より雑誌への執筆を開始し、渡豪後は旅行を中心にジャーナリスト/ライターとして各種メディアへの執筆及びラジオやテレビへレポート出演する傍ら、情報サイト「オーストラリア NOW!」 の運営や取材撮影メディアコーディネーターもこなす。豪野生動物関連資格保有。在豪23年目。

Twitter:@mikihirano

個人ブログ On Time:http://tabimag.com/blog/

メディアコーディネーター・ブログ:https://waveplanning.net/category/blog/

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