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ヨシヒロミウラ|ベトナム

ベトナム人の中国嫌いはどこから来るのか? 歴史が形づくる感情の正体

ベトナム ラオカイ省にある中国との国境。川の左側が中国、右側がベトナムだ。(撮影:ヨシヒロミウラ)

ベトナム人の中国嫌いはどこから来るのか? 歴史が形づくる感情の正体

隣国への「嫌悪」は単なる感情ではない

ベトナムで暮らしていると、中国の話題になった瞬間に空気が少しだけ変わる。お茶を飲みながらの気軽な会話で中国や中国製品が話題に出たとき、中国を褒めるベトナム人はまずいない。これは単なる隣国へのライバル心では説明しきれない。1000年を超える支配と抵抗の歴史が、ベトナム人の感情の土台をつくってきたからだ。

1000年の「北属期」が育てた独立の意識

紀元前111年から939年まで、ベトナム北部は中国王朝の支配下に置かれた。ベトナムの歴史教育ではこの時代を「北属期」と呼ぶ。
支配に抵抗して独立を勝ち取った英雄ゴー・クエンは、今でも国民的存在だ。「二度と支配されたくない」という集団的記憶が、現代の価値観にも濃く刻まれている。

独立後も続いた「侵略の歴史」

独立を果たしても、中国との衝突は終わらなかった。明軍侵攻(1407年)、清軍侵攻(1789年)、そして1979年の中越戦争。特に1979年は記憶が生々しく、ハノイで年配の方と話すと、当時の話題が普通に出てくる。中国が攻めてきたというリアルな体験は、現在の対中観に直接つながっている。

南シナ海問題は「今そこにある緊張

歴史だけでなく、今も摩擦は続いている。中国の「九段線」主張、漁船拿捕、石油掘削リグの強行設置など、ベトナムの主権を脅かす行為は絶えない。特に2014年の「981リグ事件」では全国で反中デモが起き、一部は暴動化した。

若い世代にとっても対中緊張は「過去ではなく現在」だ。

文化的に近いからこそ摩擦も大きい

ベトナムには漢字、儒教、旧正月(テト)など、中国文化の影響は大きい。しかし、ベトナム人はそれを「伝統」ではなく「支配の名残」と捉えることも多い。文化的に近いほど、政治的な摩擦が起きたときに感情が強く揺れやすい。日本と韓国の関係に近い構図だ。

「中国人が嫌い」ではなく「中国政府を信用できない」

ベトナムで話を聞いて感じるのは、多くのベトナム人は人としての中国人を嫌っているわけではないということだ。中国の技術や文化を評価する声もある。しかし、「中国政府の行動は信用できない」という冷静な感情が、対中観の中核にあるのだ。

日本とベトナムの距離感を理解するために

日本から見ると「ベトナムは親日国」というイメージが強い。それは好意だけではなく、地政学的な理由ーー 歴史的に中国と距離を置きたいという意識も背後にある。日本企業が歓迎されやすい背景には、こうした文脈が確かに存在する。

結論 ベトナム人の中国嫌いは「歴史的経験値

ベトナムの対中感情は感情論でもナショナリズムでもない。1000年の支配、度重なる侵略、現在進行形の領海問題、文化的近さゆえの摩擦―これらが積み重なった結果だ。民族としての生存戦略の延長線上にある「経験値」として理解すべきである。日本がベトナムとより深く関わるためには、この歴史の地層を正しく理解することが欠かせない。

 

Profile

著者プロフィール
ヨシヒロミウラ

ベトナム在住。北海道出身。武蔵大学経済学部経営学科卒業。専攻はマーケティング。2017年に国際交流基金日本語パートナーズとしてハノイに派遣。ベトナムの人々と文化に魅了され現在まで在住。現在進行形のベトナム事情を執筆。日本製品輸入商社と人材紹介会社に勤務。個人ブログ: ベトナムとカンボジアと日本人 X: @ihiro_x Threads: ihiro_x

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