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ベトナムと日本人

ヨシヒロミウラ|ベトナム

ベトナムEV市場で挑むホンダの逆襲 ――制度変更で揺れる市場で、「日本品質」は信頼を保てるか?

左から UC3、CUV e:、ICON e:

▪️交差点の風景が変わりつつあるベトナム

ホーチミンやハノイの交差点では、かつての排気音に代わり、電動モーターの静かな駆動音が広がり始めている。人口約1億人に対しおよそ7700万台のバイクが登録されているというベトナムは、いま世界でも稀なスピードで「電動二輪国家」へと移行しつつある。この巨大な転換期に、本格参戦したのがホンダ・ベトナムだ。

▪️3車種で描くホンダの戦略

ホンダが展開するのは、ICON e:、CUV e:、そしてUC3
ICON e:は22,000,000VND前後(ただしバッテリーは別でバッテリーをレンタルするために 350,000 VND/月を支払う必要がある)で、学生や若年層の"初EV"を狙う量販モデル。CUV e:は45,000,000VND級で、品質やブランドを重視する通勤層向け。UC3は現地組立による価格最適化を視野に入れた主力候補だ。価格と用途を分け、市場の階段を設計する王道戦略である。

▪️VinFastの価格帯とターゲット層

地場最大手VinFastは、より広い価格レンジで市場を囲い込んできた。
学生向けのEvoシリーズは20,000,000VND台前半からと手頃で、都市部の若者を中心に拡大。Klaraシリーズは30,000,000VND ー 40,000,000VND台で日常利用層を狙う。上位のTheonは高価格帯で性能志向層向け。さらに、バッテリーレンタル(thuê pin)モデルで初期購入価格を抑え、普及を加速させた。価格面では、ホンダよりも「入口を広げる」設計だった。

▪️EVバイクタクシーという普及装置

VinFastのもう一つの特徴は、EVバイクタクシー事業を通じた「実走行による普及」だ。
同社は自社グループの配車・タクシーサービスを活用し、街中に大量のEVバイクを走らせることでブランド露出と実績を同時に積み上げている。ドライバーにとっては燃料費削減が魅力となり、乗客にとっては「電動でも問題なく走る」という体験が広がる。販売だけでなく、運行事業を通じて市場を作る垂直統合型モデルである。

▪️光と影――制度変更が生んだ不信

しかし近年、VinFastはOSの故障や出張修理サービスの停止、バッテリーレンタルモデルを終了させるなど、性能の問題や制度変更が相次いで起こした。初期価格を抑える仕組みが変わり、料金体系も再設計されたことで、「途中でルールが変わる」という不満も聞かれる。さらに交換バッテリー棚を歩道に設置する計画は、利便性と公共空間のバランスを巡る議論を呼んだ。価格競争力を持ちながらも、運用面での信頼維持が課題となっている。

▪️「安心して長く乗れる」価値

ここに、ホンダの勝ち筋がある。
壊れにくいこと。全国に広がる販売・修理網。部品供給の安定。派手な値引きではなく、十年後も使えるという確実さだ。電動化の波のなかで、消費者が求めているのは未来的な演出よりも、「生活の足として止まらない」安心感である。

▪️それでも価格は壁になる

もっとも、ホンダにも課題はある。
45,000,000VND級のCUV e:は、平均的な若者にとっては依然高額だ。VinFastの20,000,000VND台モデルと比べれば、価格差は明確である。ホンダが「高いけど納得できる」と感じさせられるかどうかは、本体自体の品質はもちろん、アフターサービスやリセール価値まで含めた総合力にかかっている。

▪️日本企業への問い

ベトナムは、日本企業にとって未来市場の縮図だ。
価格で攻める地場企業と、品質で応える日本企業。どちらが持続的に選ばれるのか。電動化という新しい競争軸の中では、ブランドの信頼がホンダであってもゼロベースで再評価の対象になる甘くない市場だ。

▪️静かなモーター音の先に

交差点を静かに走るEVの一台一台が、ブランドの信頼を積み重ねていく。
制度変更で揺れる市場で、約束を守り続けられるか。ホンダの挑戦は、単なる海外販売戦略ではない。価格競争に飲み込まれず、品質と誠実さで勝てるかという、日本企業全体への問いである。ベトナムの街角で静かに走る一台のEVが、日本のものづくりの未来を照らす。全ての日本人にとって、その行方は応援そして共に戦う価値のある戦いだ。

▪️本記事の執筆者・ヨシヒロミウラは、
ベトナムおよび東南アジアを軸に、社会・経済・文化の変化についての考察を
個人サイト yoshihiromiura.comにて継続的に発信しています。

 

Profile

著者プロフィール
ヨシヒロミウラ

北海道出身。ベトナム在住。武蔵大学経済学部経営学科卒業(マーケティング)。日本とベトナムを行き来する食、教育、人材等のビジネスの現場に関わりながら、現在進行形のベトナム社会を主なフィールドとし、アジア都市の経済・制度・文化の相互作用を観察し、思考、日本語で記録している。
個人ブログ:yoshihiromiura.com
X:@ihiro_x

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