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ヨシヒロミウラ|ベトナム

ベトナム ハノイ市内のガソリンバイク乗り入れ禁止へ、市民の声と不安

撮影 ヨシヒロミウラ

2025年7月12日、ファム・ミン・チン首相は「指令20/CT‑TTg」を発表し、ハノイ市中心部(環状道路1)へのガソリンバイク乗り入れを2026年7月から禁止する方針を示しました。この施策は都市部の大気汚染や交通渋滞の緩和を目指すもので、今後2028年には自家用車にも制限が拡大され、2030年には環状道路3まで対象範囲が広がる予定です。

環境改善への期待

多くの市民は「都市の暮らし方が変わる好機」として歓迎の声を上げています。環境意識の高い女性公務員、グエン・ティ・タオさん(会社員・33歳)は「朝晩の排気ガスが本当にひどかった。公共交通が充実すれば、迷うことなく賛成します」と発言。また、ニュースサイト ベトナム・ネットの読者「Thanh Phuc」さん(匿名)は「首都で暮らす1,000万人が汚染の影響を受けている。ガソリンバイク禁止は長期的に見て必須だ」と支持を明言。

難航するインフラ整備と低所得層の懸念

一方で、市内交通網の整備が追いついておらず、市民の不安も根強いです。ニュースサイト VNエクスプレスによれば、メトロは輸送量が1-2%にとどまり、バスは14%程度しか需要を満たしていないという実態があります。その結果、乗り入れ禁止区域に入るにはガソリン車を降りて駐車し、バスや電気バス、電車に乗り換える必要がありますが、郊外との連携や乗り継ぎ場所の整備が不十分です。自営業の配達員、チャン・バン・ソンさん(30歳)は不安を吐露します。「借金で買ったガソリンバイクをどうするのか? 電動バイクは距離がもたないし、価格も高い。補助金3〜5百万VNDでは足りません」と強調。

補助金と政策支援の議論

政府・市当局は、ガソリン車から電動バイクへの切り替えに1台あたり一般3 百万VND、低所得者で最大5 百万VNDの補助を検討しています。しかし、これも「焼け石に水」との声が大多数。多くの市民が「最低でも1千万VND(約5万円)程度の補助が必要」と訴え、制度の抜本的な拡充を求めています。さらに、VNエキスプレスの調査では、市民の約34%が公共交通、28%がバイクタクシーやタクシーの電気車、約24%が電動バイク購入を考えていると答えています。多くの人は、公共交通が通常通り機能しない限り、移行が困難だと実感しています。

実施時期と透明性の課題

都市計画専門家のドアン・ゴック・ギエム氏は「早すぎる決定だ。公共交通や駐車場、充電インフラが整わないままでは政策が絵に描いた餅になる」と苦言を呈しています。また、電動バイク製造や販売に関する政策には曖昧さがあり、「外国系企業、市場支配の懸念」も指摘しています。

今後の見通しは?

実際、2017年以来、大気汚染と交通渋滞の問題に直面して、ハノイ市は2030年までに一部の地域でのバイクの運行を段階的に制限し、旧地区でのバイクの運行を停止するというロードマップを設定している(決議第04号は2017年7月4日にハノイ人民評議会で可決された)。しかし今までこの政策は推進できていなかった。さて今後はどうなるのか? ガソリンバイク禁止は、環境改善という面では大きな一歩ですが、市民生活に直接関わる施策としては「不十分な準備」という声が目立ちます。特に、配達・サービス業の生計を支える層や低所得世帯にとっては、補助金・インフラ整備・移行支援のあり方が、今後の鍵となるでしょう。行政側は、2025年末までに交通網や駐車・充電施設の整備計画を公開し、市民に「移行の青写真」を示す必要があります。そうした透明性と現実的なサポートなしには、施策成功は難しいといえるでしょう。市民の期待と不安が交錯する中、ガソリンバイク禁止は公害対策の象徴的な取り組みとなります。今後の政策の行方が注目されます。

※VN EXPRESS・VIETNAMNETを参照

 

Profile

著者プロフィール
ヨシヒロミウラ

ベトナム在住。北海道出身。武蔵大学経済学部経営学科卒業。専攻はマーケティング。2017年に国際交流基金日本語パートナーズとしてハノイに派遣。ベトナムの人々と文化に魅了され現在まで在住。現在進行形のベトナム事情を執筆。日本食輸入問屋AKURUHIとグループ会社の人材紹介会社AKURUHI JVで勤務。日本製品のレストランやスーパーへの卸売、特定技能・義人国、日本語が話せるベトナム人高度人材のベトナム国内企業・日系企業への紹介に奮闘中!X: @ihiro_x

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