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中島恒久|アメリカ

海外の日系コミュニティに日本政府からの支援は届くのか?其の1

Parade participant dancing during the Nisei Week Grand Parade Los Angeles CA. Augest 20, 2017 -istock

突然ですが公益財団法人海外日系人協会の2017年のデータでは、海外日系人は推定で380万人いるといわれています。(下図参照)また、外務省の2020年版海外在留邦人数調査統計によると海外在留邦人は141万人とされています。日系人と海外在留邦人を合わせると約520万人となり、ざっくり北海道の総人口と同じくらいの人数の日系人と海外在留邦人が世界中で暮らしていることになります。

population of nikkeijin180710.png

出所 http://www.jadesas.or.jp/aboutnikkei/index.html

世界各地に散らばる同胞達はその土地で親睦団体を作っていくことが多いのですが一体どのくらいの数の団体が存在しているのでしょう?海外日系人協会の国際日系ネットに登録されているアメリカ国内だけで71団体もあるとのことです。各州に最低一つは日本人もしくは日系人団体がある計算になるんですね。(実際は日系人、在米邦人の居住が多い地域に集中していますが)世界各国に散らばる全ての団体を全て調べる事は不可能ですが、相当な数になることは容易に想像できます。

なぜ急に日本人および日系人の団体の数の話をしたのかと言うと、2021年1月28日に成立した令和2年度第3次補正予算に組み込まれた「在留邦人・日系人支援拡充」の支援とそれらの団体が関係してくるからなのです。コロナの影響を受けている海外の同胞とコミュニティをサポートするために、この総額91億円にのぼる大規模な支援が決定したことは凄いことだと思います。日本の新聞などでもこの支援について報道もされたのですが、実態はどうなっているのかを何回に分けて書いていきたいと思います。

外務省のウェブサイトに令和2年度第三次補正予算案(概要)が公開されていますので見てみましょう。

在外諸団体を通じた海外在留邦人・日系人への支援
在外の日本人会、日本商工会議所、日系人団体等が実施する、在留邦人・日系人コミュニティにおける感染拡大防止やビジネス環境作りを目的とした事業を助成。
62億円

在外教育施設支援の強化
日本人学校・補習授業校等の現地採用教師・講師の給与の補填率向上のための助成を延長(令和2年10月から令和2年度末分までの延長)。
2.4億円

在留邦人の実態把握・情報発信の強化
在留邦人支援をより効果的に実施するため、在留届制度の変更に伴うシステム改修、領事メールの大量発信に備えたインフラ強化、海外安全ホームページの整備等を実施。
3.0億円

日系人団体が運営する医療・福祉施設等への支援
日系人団体が運営する医療・福祉施設等の感染防止対策、事業継続のための費用をJICAにより助成。
24億円

ということで、「在外諸団体を通じた海外在留邦人・日系人への支援」が62億円と全体の68%を占めます。一番の目玉と言って良いでしょう。この62億円を世界中に点在する「在外の日本人会、日本商工会議所、日系人団体等が実施する、在留邦人・日系人コミュニティにおける感染拡大防止やビジネス環境作りを目的とした事業」の助成に使うということですが、日本語の情報にアクセス出来ない大多数の日系人の団体にこの情報が届くかどうか?がこの予算の本来の目的を達成できるかどうかを決定する重要なポイントだと思っています。

各団体が「感染拡大防止やビジネス環境作りを目的とした事業」を企画し、申請し、審査をパスする必要がある訳ですが、実際のところ要件が少し曖昧なので企画を立てるのが難しいのでは?とは思っています。この辺りは在外公館からアドバイスやアイデア協力が欲しいところだなぁ、と思います。各団体においては基本的に非営利団体が多いでしょうから、そこまで人材がいないのでは?と想定します。企画は出来ても実際に動く人がいないということになりかねないなぁ、と心配しています。そういったことを乗り越えてコミュニテイの活性化につながる事業を実施できるのであれば、それは本当に素晴らしい事だと思います。私も当地の商工会議所のメンバーですので当事者として知恵を絞ってみたいと思っています。

さて、公益財団法人海外日系人協会では海外日系人を下記の様に定義しています。

日本から海外に本拠地を移し、永住の目的を持って生活されている日本人並びにその子孫の二世、三世、四世等で国籍、混血は問いませんが、そういう方々を海外日系人として定義しています。

つまり日系人とはルーツと現在のステータスの話であって、国籍を保持しているとかそういう話では無いということです。それは実際に日系一世になった私の感覚とも合致するのですが、実際のところ日本との各種手続きを行うにあたっては国籍が無いというのは大きなハンデになります。

外務省は外交青書・白書の「第4章 国民と共にある外交」の中で

移住者や日系人は、政治、経済、教育、文化を始めとする各分野において各国の発展に寄与するとともに、日本と各在住国との「架け橋」として各国との関係緊密化に大きく貢献している。

と言っています。今回の支援の根幹はこの考えにあると思っています。

しかし、日本政府は既に日本人では無くなった日系人達の事をどうやって把握するのだろう?という素朴な疑問が残ります。日系人には日本との結びつきを証明できるモノが無いのです。(祖父母の戸籍などから辿るなどはできるでしょうけど)それは日本の政府も日系人達の現状を知ることは困難であることを意味します。そこで重要になるのは地域の日系人団体です。この団体が在外公館と連携し、間接的にはなりますが日系人と日本政府との繋がりを維持していくことになります。

今回の支援によって助けられる同胞達は沢山いるはずです。在外公館には速やかに日本語に加えて現地公用語での案内を出来るだけ多くの日系人団体に出して頂き、手続きを進めて欲しいと強く思います。

また2.4億円と規模は小さいですが「在外教育施設支援の強化」は在留邦人と日系人の子供達にとって大きな意味を持つと言えるでしょう。日系人の友人はこの支援について「日本語能力を失くした日系人は祖国からの情報から切り離されて(または翻訳というコストや時間がかかる工程頼みの状態で)生涯を過ごすことになるので、この2.4億円はかなり大きい」と言っていました。この感覚は日本生まれ日本育ちであり日本語に不自由のない一世の私には無いものです。このような日系二世以降だからこそ出てくる声に耳を傾けたいと思いましたし、日本の方達にも伝えたいな、と思いました。

正直なところ、現代では日系人と日本人の交流は盛んとは言えません。日本国内でも苦しい状況の人が沢山いる中で、なぜ日本国籍を有しない日系人に対して日本政府が援助をするのか?と考える方もいらっしゃるかもしれません。しかし、海外に住む日系人と本国に住む日本人は第二次世界大戦中、そして戦後を始めとした苦しい時期にはお互いに支え合ってきたという歴史を是非知って欲しいのです。

第2次世界大戦中、米国各地の在留邦人・日系人達は、米国のキャンプに強制収容されましたが、日本国は米国 キャンプに対し、味噌、醤油、日本語書籍等の慰問品を赤十字社を通じて送っていました。このような背景のもと、日本敗戦後の混乱の中、食料はじめ生活必需品にも事欠く日本国民の悲惨な状況に対し、キャンプへの慰問品に対する感謝の気持ちと、母国同胞への激励のため、粉ミルク等の食料や衣料等の援助物資が日本国に送られてきました。

今回の日本からの支援を在留邦人、日系人ともに感謝すると思います。そして、またこれからも祖国が苦しい時に日系人達はできる限り支援をすることでしょう。

是非、今回の支援が世界中の同胞達の元に有益な形で届けられて欲しいと強く思います。そして、安全に生活、活動できる日が1日も早く戻る事を願っています。

 

Profile

著者プロフィール
中島恒久

海外経験ゼロからアメリカ永住権の抽選に応募して一発当選。2004年、25歳の時にアメリカ移住。ジャズベーシストとしての活動の傍ら、寿司屋の下働き、起業、スタートアップ企業、刃物研ぎなどの仕事を転々とした結果ホームレスになりかける。現在は日系IT企業の米国法人にてCOO。サンフランシスコ在住の日系アメリカ人の一世。

Twitter: @carlostsune

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