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スペインあれこれつまみ食い

松尾彩香|スペイン

スペインで極右派と移民が衝突 極右政権が情勢に与える影響

©️YouTube - España: tercera noche de ataques contra la migración africana en Torre Pacheco • FRANCE 24

2025年7月中旬、スペイン・ムルシア州に位置する町、トレ パチェコ(Torre Pacheco)で移民を標的にした暴力行為や差別的扇動が相次ぎ、大きな社会的波紋を呼んでいます。発端となったのは、7月10日に発生した1件の暴行事件でした。地元在住の68歳の男性が、北アフリカ系とされる若者3人に殴打され負傷したことが報じられ、これをきっかけに一部の極右系グループがSNSを通じて抗議活動や移民排斥を扇動しました。

事件から数日後、外部から集まったとされる極右系グループがハンマーやナタを手にトレ パチェコに現れ、北アフリカ系の移民が経営する商店に対する襲撃やガラスの破壊、差別的スローガンの唱和など、移民を標的にした差別的な暴動事件へと発展しました。一方、地元の北アフリカ系移民の一部もこれに対抗する姿勢を見せ、路上での衝突が複数日にわたり発生しました。現地警察と治安部隊はただちに対応に乗り出し、暴力行為に関与したとみられる少なくとも14人を逮捕、120人以上に対して身元確認を実施しました。

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©️YouTube -Cronología visual de Torre Pacheco: de los bulos a la escalada de violencia en los barrios

 

移民に支えられる地域経済

トレ パチェコは、ムルシア州の中でも特に農業が盛んな地域であり、果物や野菜の大規模生産が地元経済を支えています。これらの農業活動において、北アフリカ出身を中心とする移民労働者の存在は不可欠であり、何年にもわたり地域社会との共存が築かれてきました。町の住民の多くは移民との共生に肯定的な立場をとっており、「移民なしでは町の農業も、経済も、日常も成り立たない」という声が報道を通じて多数紹介されています。そのため、今回トレ・パチェコに外部から現れた極右系グループによる暴力行為や差別的言動に対しては、町の実情をまったく理解していない行動だとして怒りの声が多数上がっています。

 

極右政党による差別発言

この極右系グループの暴力行為を後押ししたのが極右政党であるVOXの議員らの発言です。VOXの幹部や関係者は地元男性が移民によって殴られた事件について複数の場面で発言を行い、政府と移民政策を強く批判しました。VOX党首のサンティアゴ・アバスカル氏は、トレ パチェコでの暴力事件に対して「現場で起きた問題よりも、それを引き起こした政策の責任」を主張し、社会労働党(PSOE)と国民党(PP)による移民政策を「移民の犯罪を助長した」と非難しています。また、ムルシア州VOX代表のホセ・アンヘル・アンテロ氏は「スペインにはこれ以上違法移民を受け入れる余裕はない」とし、「自国民を守るためには違法移民の強制送還が不可欠である」と公然と主張しています。同氏の発言は、ムルシア州検察局によりヘイトクライム(憎悪犯罪)を構成しうる発言として調査対象となっています。さらにVOX国会議員のペパ・ミラン氏は、トレーペーチェコの状況を「かつてETA(バスク独立派武装組織)がテロを行っていた時とまったく同じ」と比較するなど、極めて過激な発言を行い、社会の緊張をさらに高めました。VOX党首のアバスカル氏は「適応できない外国人は、合法であっても帰国させるべきだ」との主張を繰り返し、「リマイグレーション(再移住)」政策の推進を表明しています。これらの主張がVOXの支持者たちのヘイト感情を奮い立たせ、今回の様な暴動事件に発展されたとされています。

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VOX党首アバスカル氏 ©️YouTube - TORRE PACHECO: ABASCAL pide "DEPORTACIONES MASIVAS" y culpabiliza al "BIPARTIDISMO" | EL PAÍS

 

検察による捜査と告発

このような一連の発言や行動に対して、スペインの検察当局はヘイトスピーチと暴力扇動の疑いで正式な調査を開始しました。特にアンテロ氏の発言については、人種的偏見に基づく公共の扇動行為として、刑事責任を問う可能性があるとされています。左派政党ポデモスは、VOX党首アバスカル氏やアンテロ氏のほか、SNS上で過激なメッセージを拡散した著名インフルエンサー数名をまとめて検察に告発しました。

 

スペインにおける移民問題

スペインは欧州の中でも移民受け入れが多い国の一つであり、ラテンアメリカ諸国や北アフリカからの移民が国内労働力の一端を担ってきました。特に農業・建設・介護分野では移民労働者が不可欠となっており、こういった労働者の多くが適切なビザや滞在資格を有しています。しかし、経済格差や地域ごとの緊張、治安不安の感情が結びつくことで、「移民=犯罪」といった誤った認識が一部で定着しやすくなっています。VOXのような極右政党は、こうした不安感を利用し、支持基盤の拡大を図っているとする見方もあります。報道によれば、VOXの言説は一部の有権者には訴求力を持つものの、移民と共存してきた地域社会においては、むしろ強い反発や拒否感を生んでいます。こうした状況の中で、スペイン国内では移民問題をめぐる立場の違いが際立ち、社会の二極化が進行しています。結果として、移民をめぐる議論の溝は、ますます深まっているのが現状です。

 

Profile

著者プロフィール
松尾彩香

2015年スペイン巡礼(カミノデサンティアゴ)フランス人の道を完歩。スペイン語習得のために渡ったコロンビアでコーヒー農家になるもスペイン移住の夢が捨てられず、現在はコロンビアのコーヒー事業を継続しながらマドリードのベッドタウンでひっそりとスペインライフを満喫中。

Twitter: @maon_maon_maon

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