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スペインあれこれつまみ食い

松尾彩香|スペイン

「ゾンビランド」と化したマドリッド バラハス空港 増え続ける空港居住者たち

©YouTube - Descubriendo la Terminal 4 del Aeropuerto Adolfo Suárez Madrid-Barajas | España al descubierto

スペイン・マドリードの玄関口、アドルフォ・スアレス・バラハス空港。年間およそ6,000万人以上が利用するこの国際空港が、いま人道的な危機の現場となっています。現在、この空港には300〜500人ほどのホームレスが居住しているとされています。特にターミナル4(T4)では、昼夜を問わず多くの人々がベンチや床で眠り、トイレで体を洗い、荷物を身の回りに積み上げて生活しています。

  

AENAの対応:「目に見えない化」

状況が注目を集めるようになったきっかけの一つは、航空会社や空港職員たちからの相次ぐ苦情でした。「治安が悪化している」「南京虫(ベッドバグ)の被害が出ている」「トイレが汚されている」。これらの声を受け、空港の運営会社AENAは一部の居住者をT4の人通りの多いフロアからホームレスの人々を地下1階へと移動させ旅行者と居住者を引き離すという対応を取りました。El Paísの報道によれば、その移動先は窓もなく通行人の少ないエリアで、そこに200人以上が密集し、椅子もほとんどない空間での生活を強いられているのだそうです。またAENAはNGO団体が行っている食糧支援を禁じたり、水道や電気を停めたりして居住者にとって住みづらい環境をつくり自主的に出て行ってもらおうと試みますが、その効果はほとんどありません。

  

行政の責任転嫁──誰がこの問題に対応するのか?

空港運営会社のAENAは「我々は空港の管理者であり、社会的支援は自治体の責任」と主張。マドリード市は「空港は国の管轄であり、市単独では対応できない」と反論。中央政府は「調整役を担う姿勢はある」としつつ明確な介入を避けており、どの行政も自分らは関係ないというスタンスのようです。この構図は何年も続いており、根本的な対策が講じられないまま、空港で生活する人々の数はじわじわと増え続けています。Cadena SERによれば、AENAは最近になってマドリード市に対し正式な要請文書を提出予定で、行政間の対応を「義務」として文書化しようとしています。

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©YouTube -CAKE MINUESA| Desembarco masivo de indigentes para dormir en Barajas: Los olores son insoportables

  

住人らの背景

空港で生活する人々の多くは中高年、失業者、精神疾患を抱える人々と言われていますが、中には定職についているおり空港から毎日出勤している人もいるようです。しかし居住者の中には難民申請者や不法滞在者も少なくなく、なんらかの前科がある人も多くいるといいます。ABC紙によると、空港内では盗難や薬物の使用、トイレの不衛生利用なども発生しており、職員の間では疲労やストレスによる欠勤も増加しています。数日前にはフェンタニルを使用したであろうひとりの居住者が空港をうろつく姿を映した動画が話題になり、「空港がゾンビランドと化している」とSNSで話題になりました。

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©YouTube - ZOMBIS en EL AEROPUERTO de MADRID, ESPAÑA!

バラハス空港の現状は、都市における貧困と行政の空白を象徴する一例です。空港が単なる交通施設ではなく、社会からあふれた人々の「止まり木」になっているという現実は、まだ多くの人に知られていません。問題の解決には長期的な制度と調整が不可欠ですが、現時点ではその兆しは見えていません。この現象が「例外」ではなく「常態」となりつつあることを、私たちは事実として認識しなくてはなりません。

 

Profile

著者プロフィール
松尾彩香

2015年スペイン巡礼(カミノデサンティアゴ)フランス人の道を完歩。スペイン語習得のために渡ったコロンビアでコーヒー農家になるもスペイン移住の夢が捨てられず、現在はコロンビアのコーヒー事業を継続しながらマドリードのベッドタウンでひっそりとスペインライフを満喫中。

Twitter: @maon_maon_maon

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