2025年の夏、スペインは近年に例のない規模の山火事に見舞われています。全国で延焼面積はすでに11万5,000ヘクタールを超え、数千人が避難を余儀なくされました。複数の自治州で同時多発的に火災が発生し、犠牲者も相次いでいます。

ガリシアとカスティーリャ・イ・レオンで深刻な被害

特に深刻な被害を受けているのが、北西部ガリシア州オウレンセ県と、中北部のカスティーリャ・イ・レオン州です。オウレンセ県では少なくとも12の主要火災が同時進行しており、チャンドレクサ・デ・ケイシャでは延焼面積が1万6,000ヘクタールに達しました。地元当局は「地域史上最大の火災」と表現し、住民に広範な避難を呼びかけています。一方、カスティーリャ・イ・レオン州ではレオン、サラマンカ、サモラなどで合わせて28の火災が確認され、住民の生活に直接の影響が及んでいます。避難者の数は3,000人を超え、ラス・メドゥラスといった世界遺産を含む文化遺産も火災の被害に遭いました。モレスエラス付近の火災は3万7,000ヘクタール以上を焼失し、スペイン国内でも史上最大規模となる可能性が指摘されています。

エストレマドゥーラとカタルーニャでも避難拡大

中部エストレマドゥーラ州カセレス県でも状況は深刻でハリージャを中心とする火災は1万1,000ヘクタール以上を焼き尽くし、最終的に避難者数は2万人を超えたと報じられています。避難所では高齢者や子どもを抱える家族の姿が目立ち、農業や酪農といった地域の基幹産業への影響も避けられません。北東部カタルーニャ州でも大規模火災が発生しました。ジェイダ県トレフェタでは、雷と乾燥した強風が重なり、延焼面積は5,500ヘクタールを超え、農場関係者2人が避難中に命を落としました。

火災による犠牲者も・・・

今回の火災で命を落とした人は少なくとも7人にのぼります。レオン県では37歳のボランティア消防員が殉職したほか、別の場所でも消火活動に当たっていた2人が犠牲となりました。マドリード近郊のトレス・カントス火災でも住民1人が死亡したことが確認されています。さらに、バルセロナ近郊の火災では、車で避難しようとした農場関係者2人が炎に巻き込まれました。彼らは家畜を守ろうと最後まで留まっていたと報じられており、地域社会に大きな衝撃を与えています。オウレンセ県でも死者が報告されており、人的被害は今後さらに増える可能性があります。

火災の原因

今回の山火事の原因は一様ではありません。自然現象によるものもあれば、人為的な過失や違法行為が関わったと疑われるケースもあります。カタルーニャ州トレフェタの火災は落雷による自然発火とされている一方、ガリシア州オウレンセでは農作業で使用されたトラクターや銅線の焼却が原因とみられ、すでに逮捕者も出ています。また、一部の火災では放火の可能性も排除できないとして、警察が調査を進めています。さらに背景要因として指摘されているのが、農村部の過疎化です。人口流出や高齢化により、かつて住民が日常的に行っていた森林や農地の管理が滞り、下草や枯れ枝が放置されたままになっています。その結果、火災の燃料となる可燃物が大量に蓄積し、ひとたび火がつけば瞬く間に広がる条件が整っているのです。

住民生活への影響と政府対応

避難者は全国で数万人規模に達し、長期化する避難生活に不安の声が広がっています。住民は「自宅が焼けて戻る場所がない」「家畜や畑を失った」と語り、地域社会には深い傷が残っています。観光シーズンの真っただ中で主要道路や鉄道が一時閉鎖され、経済活動にも影響が及んでいます。政府は軍の緊急部隊UMEを含む数千人規模の消防隊を投入し、航空機による散水やEUの支援要請を行いました。ペドロ・サンチェス首相も休暇を中断して被災地を視察し、犠牲者への哀悼と被災地支援を表明しています。しかし、猛暑と乾燥、強風が重なった火災は容易に鎮火せず、消火活動は難航しています。

ここ最近、スペイン国内のテレビやSNSでは山火事の話題で持ちきりとなっています。バケーションシーズン真っ只中のスペイン。楽しい思い出でいっぱいになるはずの夏が、一部の地域の住民にとっては一生忘れることのできない悪夢のような夏として思い出に刻まれてしまうでしょう。雷などの自然要因で発生する火災は防ぐのは難しいかもしれませんが、タバコのポイ捨ての習慣やバーベキューの火の不始末に関しては個々の意識で事前に防げるはずです。スペインの夏は、本来であれば美しい海や山、そして賑やかな街並みを楽しむ時間であるはずです。今年の火災で被災した人々の苦しみを無駄にしないためにも、一人ひとりが自然と共に生きる責任を意識する必要があるのではないかと思います。