
ドバイ像の砂上点描
高級モールを駆け抜けろ!灼熱ドバイのマラソン大会

■ショッピングモールでマラソンを
ドバイでは今、ショッピングモールがマラソンコースに大変身している。
これは「ドバイモールソン2025」と名付けられた、屋内マラソンイベントだ。今月1ヶ月間、朝7時から10時まで、毎朝開催されている。
会場は、世界最大のショッピングモール「ドバイモール」を始めとした9つの大型ショッピングモール。イベントの英語名をよく見ると「Marathon(マラソン)」と「Mall(モール)」をかけて「Mallathon(モールソン)」になっているのがポイント。
ドバイには、横に長い大型モールが多い。夏の外気温は50度にも達するため、屋外を歩かなくてもいいように、店舗、レジャー施設、銀行、病院、行政機関まで、街の機能を丸ごとひとつの屋根の下に集結させているためだ。広大な館内は、当然24時間全館空調。そこを思い切ってマラソンコースにしてしまおうという、ありそうでなかった試みが、この「ドバイモールソン2025」である。
このイベントは、ドバイのハムダン皇太子の音頭によって、今年はじめて開催された。暑さで運動不足が懸念される夏に、市民の健康を促進するのが狙い。
コースはモール館内だからこそ「ルイ・ヴィトンを直進」「ディオールに突き当たったら」「オメガの方にターン」「ボッテガヴェネタを右手に見て」「パテックフィリップを左折」...といった、なんともドバイ的な展開を見せる。
日によってはヨガ体験を併せて開催したり、未来博物館から送り込まれた人型ロボットが一緒に走ったりと、多様な企画が続々打ち出されていることもまた関心を集めている。
参加費は無料。誰でも、何才でも参加可能。特別なレース企画を除き、事前登録は不要。毎朝7時から10時の間なら、いつでも好きな時間に来て、好きな距離を走ってOKだ。
■ドバイヒルズで参加してみた
ある週末の朝、私はドバイヒルズモールにて参加してみた。開始から30分ほど経った朝7時半に会場に到着すると、既に多くのランナーたちがキラキラと汗を輝かせていた。
参加登録(といっても紙のリストバンドを巻かれるだけ)を済ませると、インストラクターが溌剌とした声で参加者を集め、ストレッチをし始めた。なんとなくその輪に加わると、盛り上げ上手な彼の掛け声にのせられるがままに、コースという名の店内へと駆け出すことになった。
ドバイヒルズモールの場合、1周で約2.5キロ。本格的なランナーたちはこれを5周、10周と走り続けるようだ。
■国際都市の多様なランナーたち
周囲を見渡すと、参加者層は実に幅広い。
欧米のトライアスロン大会の記念Tシャツを着た白人の集団が、説得力のある肉体と速度で駆け抜ける。
その後ろを、フィリピン女子がTikTokで自撮りをしながらニコニコ追いかける。
ベビーカーを押した父親が、赤ん坊に通路の植木や店舗のディスプレイを見せながらウォーキングしている。
アバヤタイプのスポーツウエア(全身の肌と髪を隠しつつ動きやすい素材と形のもの)を纏ったムスリマ女性が、汗をぬぐいながら駆け抜けていく。
どこかのスポーツチームの所属らしき子どもの集団が、引率の大人にラップタイムを聞いて激励されながら2周目に突入していく。
高齢の夫婦が、会話しながらゆっくりのんびり歩いていく。
さまざまな人種と年齢が、それぞれ思い思いに楽しんでいた。
■商機としてのマラソン大会
数百メートルごとに給水所が設けられており、イベントのスポンサーである飲料水メーカー「Mai Dubai」の水が置かれていた。減ると即座に補充される充実ぶり。
飲料水メーカー以外にも、タクシー会社は会場行きのタクシーに専用の割引コードを発行したり、モールのカフェは早朝営業をして特別朝食メニューを出していたりと、ひとつの商機にもなっているようだ。
ショッピングモールに頻繁に搬入するような仕事を経験した私からすると、「マラソン開催期間中は夜間搬入や清掃の制限時間が短くなっているのでは...?早朝搬入はちょっと忙しないんじゃ...?」などと余計な心配をしてしまうが、少なくともコースの動線上は、そんな懸念を忘れさせるくらい、早朝からきちんと整えられていた。(お疲れ様です)
■現在大盛況!8月末まで開催中
事務局によると土日は参加者が多く、私が参加した日にはヒルズモール1軒だけでも550人の参加があったという。
ヒルズモール会場に参加した主婦は「近所の家族連れ同士、誘いあって参加した。子供たちが気に入ったようだから来週末もまた来るつもり」と満足げに語る。
マリーナモール会場に参加した銀行CEOは「自分はもともと運動の習慣があり、走ることが大好き。しかしドバイの夏は外で走れず、少々退屈に思っていた。そんな折に友人からこのイベントの話を聞いて、気持ちがブチ上がったよ。絶対に行く!と即決したね」と高揚した様子で語ってくれた。
普段は5ツ星ホテルのスポーツクラブで働いているというインストラクターは「日本は長寿の国だと聞いている。健康の秘訣は運動の習慣にあるんじゃないかな?違うかい?ここでは日本人をあまり見かけないね、もっともっと参加してくれよ!待ってるぜ!」とエネルギッシュな笑顔を見せてくれた。うーん、我が国の運動習慣は、彼の期待を裏切らないものだろうか。
8月末まで毎朝開催中。在住者のみなさん、旅行者のみなさん、ドバイならではのマラソン、いや「モールソン」で気持ちよく汗を流してみてはいかがだろう。
*毎年冬季に屋外で開催されるフルマラソン大会「ドバイマラソン」とは別イベント。そちらの英語表記は、正しい方のスペルで「Dubai Marathon」。そちらもぜひ。

- Mona
アラブ首長国連邦ドバイ在住。東京外国語大学卒業後、日系ベンチャー、日系総合商社を経て、湾岸系資本の現地商社等に勤務。ドバイ現地情報や中東ビジネス小話を発信中。
Twitter:@Monataro_DXB