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平野美紀|オーストラリア

ついに絶滅が宣言された豪の固有種 クリスマス島トガリネズミ

オーストラリアの切手にもなった豪クリスマス島の固有種「クリスマス島トガリネズミ」

またひとつ、地球上から生き物が姿を消してしまった。

オーストラリアのクリスマス島にだけ生息していた固有種「クリスマス島トガリネズミ(英名:Christmas Island shrew)」だ。もうその姿を見ることはできないだろう。

ここ数十年間では、目撃情報すらほとんどなく、1900 年以降に確認された記録は 1958 年、1984 年、1985 年の 4 件のみ。過去に行われた入念な調査・研究では 、クリスマス島トガリネズミが生き残れる確率は、およそ96%という悲観的な結果もでており、もう絶滅してしまったに違いない...と誰もが感じていた。

そして、2025年10月10日、ついにIUCNレッドリストで「絶滅」のカテゴリーに入れられてしまったのだ。(参照

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かつては島の熱帯雨林全体に広く生息

1900年初頭、島の珍しい生き物を調査するために滞在していた博物学者たちは、島内の熱帯雨林のそこかしこからコウモリのようなクリスマス島トガリネズミ鳴き声が聞こえたと記録。熱帯林エリア全体に広く生息していると指摘していた。

しかし、その後、島での産業が活発化し、鉱業や林業などに従事する移住者が増え、移住者が持ち込んだ外来種(犬や猫などのペットを含む)が島の生態系を劇的に変化させていった。

また、人と外来種が島に入ってくることで、もともと島にはなかった細菌や寄生虫、ウイルス類も持ち込まれることになり、致命的な感染症も流行。中でも、人間が持ち込む食料などに紛れ込んだクマネズミが媒介するトリパノソーマにより、島固有の哺乳類が急速に減少したという。

さまざまな外的圧力が、森林の地面近くに生息する小型食虫動物へ影響を与え、さらには、人間が持ち込んだ猫が逃げ出し、野猫として繁殖し続けた結果、クリスマス島トガリネズミのような小さな生き物は、猫の格好の餌として捕食されていったのだ。

人間の活動により、絶滅に追い込まれる生き物がいる。これは、クリスマス島トガリネズミだけに限ったことではない。これからもさらに増えていくだろう。

オーストラリアに生息する世界一小さなペンギン「リトル・ペンギン」も、人間の生活圏に近い場所の営巣地では、個体数が激減している。船やレクリエーション用水上バイクとの衝突事故のほか、人工光や音によって方向感覚を失って営巣地にたどり着けなくなり、衰弱して死亡してしまうケースも少なくない。これは、人間の活動が生き物たちの生息環境を壊しているといえないだろうか。(オーストラリアの野生ペンギン、各地で個体数最低を記録

クリスマス島トガリネズミの絶滅宣言は、私たち人間が個々の行動について今一度振り返り、考え直す必要があることを投げかけているように思えてならないのだった...〈了〉

<参考文献>
Australian terrestrial mammals: how many modern extinctions?

 

Profile

著者プロフィール
平野美紀

6年半暮らしたロンドンからシドニーへ移住。在英時代より雑誌への執筆を開始し、渡豪後は旅行を中心にジャーナリスト/ライターとして各種メディアへの執筆及びラジオやテレビへレポート出演する傍ら、情報サイト「オーストラリア NOW!」 の運営や取材撮影メディアコーディネーターもこなす。豪野生動物関連資格保有。在豪23年目。

Twitter:@mikihirano

個人ブログ On Time:http://tabimag.com/blog/

メディアコーディネーター・ブログ:https://waveplanning.net/category/blog/

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