
イタリア事情斜め読み
週末だけの楽園? イタリア中産階級とビーチ文化の終焉

|混雑する週末、閑散とする平日の新たな風景
イタリア北東部・アドリア海に面した海岸線で、エミリア=ロマーニャ州に属しているラヴェンナのマリーナからチェゼナーティコ、そしてリミニからリッチョーネまで続くロマーニャ海岸一帯は、イタリア国内では昔から「庶民のバカンス地」として親しまれてきたエリアで、特にローマやボローニャ、ミラノなど都市部に住む人々が、夏に海水浴や休暇を楽しむために訪れる定番のリゾート地だ。
そのロマーニャ海岸が、ここ数年で観光の風景が大きく変わったと言われている。週末になると、ビーチは海水浴客で溢れ、道路は渋滞し、レストランは満席状態となる様子が報告されている。波打ち際には人がひしめき合い、海辺の遊歩道を行き交う人々の姿が絶えないという。
しかし、この活気ある光景は平日になると一変するとの指摘がある。
焼けつくような太陽が照りつける平日の海岸は、7月の盛夏でさえ静寂に包まれる状況が観察されている。海辺の通りには人影もまばらで、ビーチは閑散とし、ホテルもひっそりとしているという報告が複数寄せられている。
|中間層の変化と観光動向への影響
SIB(Confcommercio 傘下ビーチ業者組合)代表のシモーネ・バッティストーニ氏によると、この現象の背景には経済的な要因があるという見方が広がっている。かつてロマーニャ海岸は「中間層の王国」と呼ばれていたが、近年の消費動向の変化と賃金の停滞により、観光客の行動パターンが大きく変化したのではないかと分析されている。
専門家の間では、観光客の滞在期間が確実に短縮されているという見方が有力だ。多くの人々が週末に集中して海を訪れるようになり、平日との格差が拡大しているという。この変化は、イタリア国内の経済状況を反映したものと考えられている。
興味深いことに、外国人観光客の数は着実に増加しているという統計が示されている。
ただし、この増加は地域によって偏りがあり、すべての場所で同じような恩恵を受けているわけではないようだ。外国人観光客の多くはプールを好む傾向があり、従来のビーチ中心の観光スタイルとは異なる選択をしているという調査結果も出ている。
|価格動向と利用者の反応
現在、ロマーニャ海岸のビーチサービスは依然として競争力のある価格設定を維持していると評価されている。1日あたり25~30ユーロ(約4,250~5,100円)でパラソル1本とデッキチェア2脚を利用できる価格は、多くの観光地と比較して許容範囲内にあるという見方が一般的だ。
しかし、この価格設定が万人にとって適切かどうかについては議論が分かれている。観光業界の専門家は、「観光客の購買力自体が変化している」現実を指摘し、価格と需要のバランスが微妙な状況にあることを示唆している。
宿泊施設についても同様の傾向が見られる。ダブルルームが一泊90ユーロ(約1万5,300円)という施設もあるが、レストランや飲食店のメニュー価格は明らかに上昇していることが確認されている。簡素な飲み物でさえ7ユーロ(約1,190円)近くすることもあり、観光客の負担は確実に増加しているとの分析である。
|国際化戦略の進展
ロマーニャ海岸の将来を左右する重要な要素として、国際観光客の誘致が注目されている。2025年5月の統計によると、リミニでは宿泊数が150万泊に迫り、2016年以降の最多記録を更新したという。
特に注目すべきは、外国人観光客が全体の30%を占めている点であろう。この傾向は、リミニの「フェデリコ・フェリーニ空港」の利用状況からも確認できる。
同空港からはロンドンへの直行便が毎日運航されており、格安航空会社に加え、大手航空会社も参入している状況が報告されている。夏の初月だけでも、ロンドン・リミニ間の往復旅客数は1万2,000人を超えたという。
クラクフやブダペストなどの国際路線も好調で、業界関係者からは「満足できる結果」として受け止められ、大西洋や太平洋を越えた観光客の誘致という野心的な目標は、徐々に現実味を帯びてきているようだ。
|インフラ整備と将来への課題
フェリーニ空港の滑走路は約3.5キロメートルと、エミリア・ロマーニャ州内で最長規模を誇っているという。これは、かつて主要都市の空港と肩を並べる旅客数を記録した時代の遺産でもある。
しかし、現状では空港の受付や外構スペースなどのインフラは小規模空港の水準にとどまっているという指摘がある。この状況は、現在のロマーニャ地域が抱える複雑な現実を象徴していると言えるだろう。大きな可能性と深刻な課題が並存する状況は、この地域の今後の発展を考える上で重要な視点となっている。
自治体と観光促進機関は、今後3年間にわたって空港の国際化を強化するための投資計画を進めているという。この取り組みは、ロマーニャ全体の海岸地域にとって戦略的な意味を持つものとして位置づけられている。

- ヴィズマーラ恵子
イタリア・ミラノ郊外在住。イタリア抹茶ストアと日本茶舗を経営・代表取締役社長。和⇄伊語逐次通訳・翻訳・コーディネータガイド。福岡県出身。中学校美術科教師を経て2000年に渡伊。フィレンツェ留学後ミラノに移住。イタリアの最新ニュースを斜め読みし、在住邦人の目線で現地から生の声を綴る。
Twitter:@vismoglie