
イタリア事情斜め読み
週末だけの楽園? イタリア中産階級とビーチ文化の終焉
|波打ち際での小さな事件が示す大きな問題
ビーチをめぐる権利と利用の現実
2025年6月、リミニ北部のビーチで発生した一つの出来事が、イタリアの海岸利用をめぐる複雑な問題を浮き彫りにしたと報じられている。家族連れや地元住民に親しまれる静かなビーチエリアで、海水浴客が波打ち際にタオルを広げていたところ、施設管理者が「ここは利用禁止区域です」と退去を求めるという事態が発生したという。
この出来事は、最初は抵抗もあったものの、最終的には海水浴客が移動することで収束したと伝えられている。しかし、この件はEUの指令とも関連する、イタリアの海岸利用における未解決の課題を示すものとして注目を集めている。
海岸利用に関する規制は、地域によって異なる設定で、波打ち際は「自由通行専用エリア」として定められているが、その幅は場所により大きく異なる。
リミニ北部では通行専用エリアの幅が5メートルに設定されている一方で、リミニ南部では20メートルと大幅に拡張されているという。このエリアでは、緊急車両を除いて滞在が禁止されており、特定の業者のみが限定的な施設設置を許可されているとされている。
週末のこの「通行専用エリア」は、市街地の歩道のような混雑を見せることもあり、通常であれば日光浴に適した環境とは言えない状況が報告されている。
|法的権限をめぐる議論
こうした管理行為に対しては、法的な根拠を疑問視する声も上がっている。法律専門家の中には、規制の文言が曖昧であり、一時的な海岸利用が必ずしも「滞在」に該当しないとする見解もあるようだ。
さらに、実際の対応権限についても議論が分かれている。
本来であれば海上警察や市警が対応すべき事案であり、民間の施設管理者が排除措置を取る法的根拠は不明確だという指摘もある。
この問題の背景には、イタリアの海岸使用権制度をめぐる長年の課題がある。
国有財産である海岸線の使用権を民間事業者が長期間独占的に保持してきたが、EUの指令により公平な入札による再配分が求められるようになった。
最高行政裁判所は特定の時期での使用期限を「延長不可」と判断したが、政府は暫定的な延長措置を実施している。この措置の法的な妥当性については現在も議論が続いており、現場での混乱の一因となっているとされている。
|観光価格の上昇と利用者への影響
観光価格の動向についても、複数の調査で上昇傾向が確認されている。ビーチパラソルのシーズン契約料は、立地により500ユーロ(約8万5,000円)から1,200ユーロ(約20万4,000円)の範囲で設定されていることが報告されている。
消費者団体の調査では、前年比で約2%、過去3年間では8%の値上がりとなっているという。それでも、他地域との比較においては競争力を保っているという評価もある。
日帰り利用の現状
シーズン契約を行わない日帰り利用者にとっても、負担は増加している。1人当たりデッキチェア1脚で7~9ユーロ(約1,190~1,530円)、数年前は5ユーロ(約850円)程度だったことを考えると、明らかな価格上昇だ。
パラソルを組み合わせると、料金は25~30ユーロ(約4,250~5,100円)となり、各種レンタル用品の価格も上昇傾向にあるという。
業界関係者によると、週単位では18~25ユーロ(約3,060~4,250円)、月単位では約110ユーロ(約1万8,700円)、シーズン契約では平均500ユーロ(約8万5,000円)から最前列の1,200ユーロ(約20万4,000円)程度の価格帯となっている。
宿泊料金の動向
宿泊施設の料金についても上昇は避けられないが、業界団体によると今年の上昇率は比較的抑制されており、「原材料やエネルギーコストの上昇が要因だが、今年は5%未満の上昇にとどまる見込み」という。
価格は時期により変動し、観光客の集中する時期には大幅な引き上げが行われることもある。3つ星ホテルのフルボードで60ユーロ(約1万200円)台前半、4つ星ホテルのダブルルームで90ユーロ(約1万5,300円)程度、繁忙期には100ユーロ(約1万7,000円)を超える設定となっているという。
一方で、極めて低価格の宿泊施設も存在し、サービスの質の低下を招く恐れもあるという懸念も示されている。
|地域社会への影響と今後の展望
ロマーニャ海岸の観光業は、利用者の経済状況とサービスの質との間で微妙なバランスを保ちながら運営されている。中間層の消費力低下が進む中、観光業界は価格競争力を維持しながら、サービスの質を保つという困難な課題に直面している。
外国人観光客の増加は明るい材料だが、それが地域経済全体にどのような影響を与えるかは、今後の動向を注視する必要がある。海岸利用権をめぐる法的な不透明性も、観光業界の安定的な発展にとって課題となっている。
空港の国際化計画や観光インフラの整備などの長期的な取り組みが進められているが、その効果が現れるまでには時間がかかると予想される。この地域の観光業界は、変化する観光客のニーズと経済状況に対応しながら、持続可能な発展を模索している段階にあると言えるだろう。
観光シーズンの最終的な収支が明らかになる時期まで、この地域の観光業界は様々な課題と向き合い続けることになる。週末だけが混雑する現象は、イタリア社会の構造的変化を反映するものとして、今後も注目されていくことになるだろう。

- ヴィズマーラ恵子
イタリア・ミラノ郊外在住。イタリア抹茶ストアと日本茶舗を経営・代表取締役社長。和⇄伊語逐次通訳・翻訳・コーディネータガイド。福岡県出身。中学校美術科教師を経て2000年に渡伊。フィレンツェ留学後ミラノに移住。イタリアの最新ニュースを斜め読みし、在住邦人の目線で現地から生の声を綴る。
Twitter:@vismoglie