
パリのカフェのテラスから〜 フランスって、ホントはこんなところです
ペリエ存亡の危機 水源の汚染と隠蔽と政府の関係

スイスの多国籍企業であるネスレグループのミネラルウォーターについては、もうかれこれ5年近くも、その安全性とそれに対する対応について、問題視され続けてきました。
この問題については、ネスレウォーターズのいわゆるミネラルウォーター、ペリエ、クリスタリン、ヴィッテル、コントレックスなどのミネラルウォーターの精製段階において、2020年に同工場の従業員からの内部告発により騒動が始まり、競争・消費者問題・詐欺防止総局(DGCCRF)が調査を開始し、調査の結果、ミネラルウォーター規制に準拠しない処置を行っていることが発覚。硫酸鉄と工業用CO2の注入、認可された基準値を下回る精密濾過、さらには、いわゆる「ミネラル」、「スプリング水」の混入も行われていたという報告書が提出されていました。
最初の騒動勃発からは、忘れた頃にまた持ち上がる問題として、これまでも度々、ネスレグループのミネラルウォーター問題は、度々、世間を騒がせてきており、2024年の1月にもこの問題は再燃していました。しかし、この多くのミネラルウォーターを販売しているネスレウォーターズのミネラルウォーターの中でも今回は、特に「ペリエ」がピンポイントに名前が挙がっており、特に2025年の2月から4月にかけて販売されていた「ペリエ」から「病原性腸内細菌」が検出されたために、生産ラインが一時停止し、販売されていた商品300万本のボトルの撤廃・回収・廃棄処分となるという極めて深刻な事態に陥っています。この「病原性腸内細菌」(糞便残留物)には、胃腸炎などの感染症、さらには最も深刻な場合には、コレラや腸チフスを引き起こす病原微生物が含まれている可能性があります。
ペリエ水源地の汚染
そもそも、過去、ペリエを始めとしたミネラルウォーターの精製に関わる大スキャンダルは、水源地の汚染に端を発したものであったことは言うまでもありませんが、これまで、その安全性について指摘されるたびに、世間では一時的に炎上するものの、騒ぎがおさまれば、なんだか漠然と「問題が解明されたのだから、当然、改善されたものであろう・・」と思ってしまうものであって、実際に私自身もそのように思ってきました。
ところが、実際には、その問題は多くの隠蔽工作や嘘によって、曖昧にごまかされてきたままで、水源地の汚染という根本的な問題は改善されるどころか、悪化する一方であったことが、今回、再び騒動が起こったことによって、明らかにされています。
今回の300万本のボトル廃棄処分に関しても、ネスレグループは、頑として譲らず、「水源の水質とは無関係で単なる工場内の品質管理処置に問題があったためである」と説明していますが、当の水源地の地元オクシタニー地方保健局はその水源の安全性から、「ナチュラルミネラルウォーターの資格剥奪、完全な製造停止勧告にまで及ぶ可能性がある」と勧告を発しています。
これは採掘しているこの地域の全ての水源に適用され、具体的にはこのペリエが消滅することを意味しています。
これが昨日、今日、始まった問題ではないことが、問題の深刻さを浮き彫りにしているように思いますが、これがネスレグループの言い逃れや嘘、そして政府からの歪な特別待遇、具体的には、このネスレグループに対して許可されているフィルター規制の免除などが挙げられます。
特にこの安全性については、2022年の段階でIGAS(社会問題総監察局)が当時の経済相に提出していた報告書では、当時問題となっていたフィルターの使用を含めて現在の精密濾過システムでは全てのウィルスを濾過するには充分ではなく、特定の細菌がフィルターを通過してしまうリスクについて警告しています。このような報告が上がっているにもかかわらず、これが見過ごされ、水源地はどんどん汚染が進んでいるのですから、今回のような事故が起こる頻度が上がっていくのは当然のこと、問題が指摘されても、それが隠蔽やうそで見過ごされ続けるということは、社会的な機能が健全に廻っていないということでもあります。
どこの国でもありがちな大企業への優遇措置や特別措置ではありますが、こと市民の安全が関わっている問題に関して、これは捨て置けない話でもあります。2024年1月には、一部、このネスレグループの問題については、裏ではル・モンド紙とラジオフランスによって、「政府とマクロン大統領の側近がこれに関与している」と暴露されたこともありました。
今回のこの「ペリエ」の水源地汚染問題に関しては、このペリエの源泉である地域の汚染の原因となったものは排泄物のようですが、この正確な場所は特定はできなかったものの、この炭酸水を汲み上げる地域は近年、一戸建ての住宅が立ち並び、都市化が著しく進んでいる地域で、これらの住宅は下水道に接続できないことが多く、汚水を浄化槽に貯めているが、その浄化槽から地面に漏れることが多く、それが地下水への排泄物の浸透の原因となっている可能性もあると言われています。近年の気候変動により、大雨などによって、表層水が高速で浸透する結果をもたらします。ペリエの水は数百メートルの深さにある石灰岩の土壌の割れ目から汲み上げられていますが、この土壌の地形は水の急速な浸透を促進し、地下水面が表面汚染に対して脆弱になります。それどころか、ペリエのさらなる成長への渇望から、この採掘を拡大していることから、石灰岩が露出し、覆われていない地域に掘削井戸が作られるようになっています。
このペリエの水源地の汚染の理由は一つではないでしょうが、「水源の水質とは無関係で単なる工場内の品質管理処置に問題があったためである」などと問題を隠蔽し続けようとする限り、汚染を止めることはできません。
ネスレウォーターズ幹部を虚偽の証言で法的措置へ
「ネスレは透明性と誠実さを欠いている」・・ペリエ事件に関して、上院調査委員会は、ネスレ幹部による虚偽の証言をめぐって、パリ検察に問題を送致すると発表しています。この虚偽の証言に関しては、2025年3月に2件の細菌汚染が発生したにもかかわらず、ヴェルジェーズ(ガール県)のペリエ工場に事故がなかったとネスレ幹部が嘘の証言をしたことを告発するものです。「ネスレウォーターズグループの幹部たちは、この問題について、しばしば証言を拒否したり、機械的な回答を繰り返してきた。しかし、彼らが共有することに同意したわずかな情報の中には、明らかな虚偽のものが含まれており、現時点で少なくとも1名の偽証者が特定されている」と説明しています。議会委員会で虚偽の証言をすることは重大な犯罪であり、懲役5年と罰金7万5千ユーロの刑罰が課せられます。
問題そのものは虚偽証言ではないとはいえ、問題解決の障壁となっている虚偽証言を取り崩していくしか手立てがないとはいえ、「嘘つき!」と非難し合う子どものようだとも見えないこともありません。しかし、これは、実は大人の世界でもまかり通ってしまってきた嘘。「ペリエ存亡の危機」とも言える、事の重大さにもかかわらず、あまりにネスレ側が鷹揚に構えているように見えて仕方ないのは、実際の売り場の様子を見ても、これまでと何も変わらないのも不思議でしかありません。
この一見、健康意識の高い人が手にしているはずのナチュラルミネラルウォーターの実態に少々、高くてもそのブランドゆえに安心を買っているはずだったものに実は裏切られていたというのは、あまりに失望が高く、しかも、その虚偽に政府が絡んでいるとなれば、もはや信頼をどこにおけばよいのかわからなくなってしまう現実を浮き彫りにしているようでもあります。

- RIKAママ
フランスって、どうしようもない・・と、日々感じながら、どこかに魅力も感じつつ生活している日本人女性。日本で約10年、フランスで17年勤務の後、現在フリー。フランス人とのハーフの娘(1人)を持つママ。東京都出身。
ブログ:「海外で暮らしてみれば・・」
Twitter:@OoieR