
Fair Dinkum フェアディンカム・オーストラリア
なぜ、シドニーで30万人を動員する大規模な親パレスチナデモが決行できたのか

最終的に約30万人を動員し、「オーストラリア史上最大の政治デモ」と呼ばれるほどの親パレスチナデモが、8月3日にシドニーの中心部で行われたことを前回のコラムでお伝えしたが、英国では、つい数日前の8月10日に、親パレスチナ団体「パレスチナ・アクション」に活動禁止命令が出されたことへの抗議デモがロンドンで行われ、500人近い人々が逮捕されたというニュースが流れたばかり。 (参照)
このように、世界各地で行われる親パレスチナデモでは、逮捕者がでるなど、物々しいニュースが流れてくる中、なぜ、シドニーでは、歴史的な大規模デモが決行できたのだろうか?と、思われた方もいるのではないだろうか。
実際のところ、シドニーのデモも決行されるまでに紆余曲折あり、一筋縄ではいかなかった。今回の歴史的デモが行われるまでの経緯を以下にまとめてみようと思う。
最高裁判所にゆだねられたデモのゆくえ
今回のデモを計画した親パレスチナ団体は、当初、1万人を募集してハーバーブリッジを渡りながらガザの人道危機を訴える抗議デモの計画をニューサウスウェールズ州の管轄機関へ申請した。
ところが、クリス・ミンズ州首相は、当局が抗議活動の治安維持や安全を確保、組織するのに十分な時間がないという意見を理由に、デモ実施の許可を拒否。そして、ニューサウスウェールズ州警察は、デモを違法かつ無許可のものとするために、最高裁判所へ訴訟を起こしたのだ。
ニューサウスウェールズ州には、抗議活動によって公共の道路やインフラを封鎖することになる場合、主催者が許可を申請できるが、当局(警察側)は、許可を拒否するために裁判所に訴えることができる制度がある。
これを利用し、州警察は、安全が担保できないことを理由に、裁判所へこのデモ集会は無許可であると認定し、抗議参加者による公道封鎖免責を取り消すよう求めた。こうして、デモ決行可否の判断は、裁判にゆだねられることとなったのである。
裁判で警察側は、群衆の押しつぶしの可能性などを指摘し、計画期間が短い上、デモ主催者は公共の安全に対する注意義務を無視していると非難。しかし、主催者側は、警察の主張に異議を唱え、安全かつ平和的に行われるよう当局と協力するとし、もし禁止命令がでれば、抗議活動に参加する人がさらに増えることになり、より大きな混乱を引き起こす可能性があると主張した。
双方の言い分が相容れないまま、ベリンダ・リッグ最高裁判所判事は、デモ決行予定日前日(土曜日)の午前10時まで決断を保留。この時点では、最大5万人が集まる可能性があるとされていた。
判決が下る日、リッグ判事は、ガザ地区の人道的状況への対応は緊急を要する必要があるとした主催者側の説明には「説得力がある」とし、また、禁止命令を発令することで公共の安全が向上する証拠はないと述べ、州警察が求めた禁止命令を却下。最終的に30万人もの人々が集結したのは、この裁判所の判決も後押しとなったのではないだろうか。(参照)
こうして、イスラエルによるパレスチナ・ガザ地区への攻撃を非難し、ガザ地区住民の深刻な食料不足に早急に対応するよう求める「オーストラリア史上最大の政治デモ」が予定通り行われた。そして、このシドニーでのデモの成功を受け、現在、オーストラリア各地で同様のデモが計画されているという。
#BREAKING: Australia will recognise Palestinian Statehood, Prime Minister Anthony Albanese has confirmed.
-- 9News Australia (@9NewsAUS) August 11, 2025
The PM says it will provide the best chance for peace in Gaza, adding there should be no role for Hamas in a Palestinian state. #9News
LATEST: https://t.co/VAqq36jhWG pic.twitter.com/9JG56oyWcd
さらには、このデモの後、11日には、アルバニージー豪首相が、9月に「パレスチナを国家として承認する」と発表するなど、オーストラリアにおけるパレスチナ問題は、ここへきて慌ただしく方向転換をしているような印象だ。〈了〉

- 平野美紀
6年半暮らしたロンドンからシドニーへ移住。在英時代より雑誌への執筆を開始し、渡豪後は旅行を中心にジャーナリスト/ライターとして各種メディアへの執筆及びラジオやテレビへレポート出演する傍ら、情報サイト「オーストラリア NOW!」 の運営や取材撮影メディアコーディネーターもこなす。豪野生動物関連資格保有。在豪23年目。
Twitter:@mikihirano
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