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ラッシャー貴子|イギリス

クリスマスの風物詩「パントマイム」にも21世紀のかおり

クリスマスの時期が近づくとパントマイムの広告が登場する。左はわたしが見た劇場のもの、右はそのすぐ近くの町で同じ「シンデレラ」を上演する劇場のもの。筆者撮影

先日、初めてパントマイムを見てきた。と言うと、白塗りのピエロが体の動きだけで表現をするパフォーマンスを思い浮かべる方も多いだろう。ないはずの壁に触れたり、1人で綱引きしたりする、あれだ。

けれど、英国でパントマイムといえば、クリスマスの時期に上演される子ども向けの喜劇のことだ。「パント(panto」と略されることが多く、日本でいうパントマイムのことはmime(マイム)と呼んで区別している。

パントには長い歴史があり、起源は16世紀にイタリアで始まった喜劇、コメディア・デアルテ(Commedia dell'Arte')にさかのぼる。道化師たちが音楽に乗せて無言で演じていたものが英国に伝わると、役者が次第にセリフを話すようになり、ダジャレや言葉遊びを含むドタバタ、配役の男女逆転など独自の要素が加わり、18世紀ごろにほぼ今の形が作られた。ロンドンの有名劇場で人気を博し、クリスマス時期の上演が定着すると、「パント=家族とクリスマス」という結びつきもできあがっていった。

今の時代のパントは、「ジャックと豆の木」、「ピーターパン」、「アラジンと魔法のランプ」など、よく知られた童話に歌やダンス、大げさな演技や笑いを交えて、子どものいる家族向けに演じるものだ。実際の上演の様子を含む、BBCの短い動画記事(日本語字幕付き)を見つけたので、まずはご覧ください。画面が貼れないので、こちらをクリックしてどうぞ。

伝統あるパントには、さまざまなお約束が存在する。ひとつは観客が積極的に参加することだ。悪役には派手なブーイングが送られるし、客をステージに上げることもある。客席との間にお定まりのかけ合いがあるのも人気だ。たとえば、白雪姫の継母が「I'm the fairest of all(世界で一番美しいのはわたしよ)」と言えば、観客は大人も混じってNo, you are not!(そんなことないよ!)」と言い返す。すると女王は「Oh, yes, I am!(もちろんそうよ)」と返し、客席はまた「No, you are not!」。どちらの側も独特の節をつけて何度か繰り返すので、しつこいと言えばしつこいのだけど、子どもはそんなの大好きでしょう?

わたしのお気に入りは、悪役や探している人が背後にいる時に、「He's (She's) behind you!(後ろにいるよ!)」と客席が大騒ぎするものだ。これはまさに、昭和の時代の子どもがドリフターズに向かって叫んだ、「志村ー、後ろー!」ではないですか! わたしが劇場でパントを見ることにしたのは、これが生で見たかったからと言っても過言ではない。

ほかにも、男性が大げさなメイクで女性を演じることや、奇抜な衣装、セレブの登場など、パントの決まりごとはまだまだある。

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著者プロフィール
ラッシャー貴子

ロンドン在住15年目の英語翻訳者、英国旅行ライター。共訳書『ウェブスター辞書あるいは英語をめぐる冒険』、訳書『Why on Earth アイスランド縦断記』、翻訳協力『アメリカの大学生が学んでいる伝え方の教科書』、『英語はもっとイディオムで話そう』など。違う文化や人の暮らしに興味あり。世界中から人が集まるコスモポリタンなロンドンの風景や出会った人たち、英国らしさ、日本人として考えることなどを綴ります。

ブログ:ロンドン 2人暮らし

Twitter:@lonlonsmile

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