
パリのカフェのテラスから〜 フランスって、ホントはこんなところです
パリのメトロ3駅でのナイフ襲撃事件とOQTF(フランス領土退去命令)の不確実性
クリスマスの翌日、パリ市内のメトロ3号線の3駅(アール・エ・メティエ駅、レピュブリック駅、オペラ駅)で30分の間に3人の女性がナイフで襲撃されるという恐ろしい事件が起こりました。
かねてから、あまり評判の良くないパリのメトロではありますが、実際に日常生活を送っている身としては、そこまで怖いイメージはあまりなく、外国から来る友人や家族などが、周囲から「パリのメトロは気を付けて!とさんざん言われてきた・・」とか、「やっぱり、パリのメトロ怖い・・」などと言われて、少なからず、「そこまででもないけど・・」と思っていた矢先のことでした。
メトロ3号線の3駅で3人へのナイフ襲撃
事件はクリスマスの翌日の午後4時過ぎ、メトロ3号線で起こりました。犯人の男は、30分以内に、この路線の3駅(アール・エ・メティエ駅、レピュブリック駅、オペラ駅)で女性をナイフで刺して逃走したということで、最初の駅(恐らくアール・エ・メティエ駅)で一人目の女性を刺したあと、後続してやってきたメトロで移動して、次のレピュブリック駅で二人目を刺し、そしてまた、メトロで移動してオペラ駅で三人目を刺したと思われます。
一人目を刺した時点でなぜ?止められなかったのか?現場の状況はわかりませんが、通常、パリのメトロのホームには、駅員はいないため、また、犯人がナイフを持っていたということで、一般市民が助けに入る間もなく、後続のメトロに乗ってしまったために、犯行が止められなかったものと思われます。
検札などには、4~5人が束になって、動いているというのに、駅のホームに駅員がいないことは、かねてから疑問に思っているところではありますが、これが現状です。
それでも、事件が起こった直後に防犯カメラの映像と携帯電話の位置情報から、すぐに身元が特定され、容疑者はパリ近郊のヴァル・ドワーズの自宅で逮捕されました。犯人の男はマリ国籍の25歳の男性で、常習的な薬物使用者であったそうで、警察に知られている存在、という以上に2024年1月に加重強盗と性的暴行で有罪判決を受けており、OQTF(フランス領土退去命令)が出ている人物でした。
幸い被害者の女性は三人とも軽傷とのことですが、いきなりメトロの駅でナイフで見知らぬ人に切りつけられるなどということは、どれだけ恐ろしいことかは、言うまでもありません。
OQTF(フランス領土退去命令)が出ている人物がなぜ?街中をうろついているのか?
ふつう、OQTF(フランス領土退去命令)、いわゆる強制送還命令が出ていれば、即刻、国外退去しているのがふつうと思われるところですが、ここがフランスの実行力が伴わない制度が浮き彫りになるところでもあります。
今回の、このメトロでのナイフ襲撃犯は、昨年1月の事件での有罪判決後に国外退去命令が出た後、彼は行政拘置所に収監されていましたが、この行政拘置所には無制限に留まらせることはできず、最大90日間の滞在期間を経て、自宅軟禁の措置が取られていました。この自宅軟禁というのが曲者で、一人一人に監視が行き届くはずもなく、ほぼほぼ釈放されたと同然の状態なのです。
彼を国外退去させられなかった理由は、彼の母国であるマリが彼が「有効な身分証明書を所持していない」という理由でマリへの入国を拒否していたために、強制的に送還させることができなかったと説明されています。
フランスは良きにつけ悪しきにつけ、非常に人権意識の高い国であり、拷問や迫害の恐れがある国への送還が禁止されており、厳しい命令を出す国であると同時に、実際には「人権」という大義名分のもと、実行力が伴わないという人権と治安の板挟みの状態になっているのです。つまり、治安という観点からみれば、非常にこの制度(フランス領土退去命令)は、構造的な矛盾を孕んでいるものであるということができます。
これは、制度・外交・人権・行政能力の限界が重なった結果なのですが、ナイフで人を襲う危険性のある人が首都であるパリ市内の、しかも中心部の公共交通機関内にウロウロしている・・という恐ろしい事態を生んでいるのです。
パリ市内のメトロで「スリや置き引きに注意してください!」というのなら、まだ注意のしようもありますが、これでは注意のしようもありません。もう運が悪かった・・と思うほかありません。
ならば、日本における同様のケースはどうなっているのかを調べてみると、フランスに比べて、日本は人権よりも出入国管理優先というか、法令順守優先する措置がとられているようです。人権問題については、大きくは死刑問題などでは、世界的な批判を浴びている日本ではありますが、この治安維持という観点からみると、日本がとってくれている措置の方が治安を維持してくれているのではないか?と思わずにはいられません。
このOQTF(フランス領土退去命令)については、かねてから私も問題に感じていたところでもあり、近年、パリで起きた狂暴な事件の実行犯には、実はこのOQTFがすでに出ていた・・というものが少なくありません。私がちょっと思い出すだけでも、暴行の末、ブローニュの森に埋められた大学生の事件、パリ東駅で兵士がナイフで襲われた事件、パリ・リヨン駅でのナイフとハンマーによる襲撃事件、パリ北駅での6人刺傷事件、パリ公立病院の救急治療室での強姦事件などなどの狂暴な犯行は、全てこのOQTFが出ていたにも関わらず、実際には国外から退去していなかった者による犯行でした。
また、厄介なことに、この人物、自宅の捜索の結果、フランスのパスポートが出てきたというのですから、話はさらにややこしいことになっています。日本は二重国籍を持つことが禁止されていますが、フランスに居住する外国人はフランス国籍を取ろうとすることが多く、つい最近、アメリカの俳優ジョージ・クルーニーが家族とともにフランス国籍を取得したと報道されていました。このような事件の話にジョージ・クルーニーを引き合いに出すのも失礼な話ではありますが、この犯人がフランスのパスポートを持っていたというので、なんとなく思い出しました。しかし、さすがに国籍取得ともなれば、様々な条件が課せられているのは当然のことですが、なぜ?このような人物がフランス国籍を取得することができたのかも疑問ではあります。
そもそも、長年パリに住んでいる私が、あまりパリのメトロを怖い・・(充分、注意はしていますが・・)と思わなくなっているのと同様に、今回の「パリのメトロの駅でナイフを持った男が3人の女性を刺す」という陰惨な事件でさえも、そこまでニュースとしては大きく取り扱われず、これがもし、東京のメトロ?地下鉄内で起こったら、もう、とんでもない大騒ぎになると思われ、もう、パリ市民が治安の悪いことに慣れてしまっている→そこまで問題視されない→改善されない・・という悪循環を生んでいるような気がしてなりません。

- RIKAママ
フランスって、どうしようもない・・と、日々感じながら、どこかに魅力も感じつつ生活している日本人女性。日本で約10年、フランスで17年勤務の後、現在フリー。フランス人とのハーフの娘(1人)を持つママ。東京都出身。
ブログ:「海外で暮らしてみれば・・」
Twitter:@OoieR






















































