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ベトナムと日本人

ヨシヒロミウラ|ベトナム

なぜベトナムは東南アジアなのに「東アジアの顔」をしているのか(1)

実は珍しいベトナムで販売しているベトナムの地図。これは中高生向けのベトナム地理の教科書です。 撮影:ヨシヒロミウラ

南国の熱気の中に、受験戦争の気配がある。ベトナムはそんな国だ。

ホーチミン市の路上でブンを啜れば東南アジア。だが塾で中・高校生が受験勉強をしている姿を見ると、東京やソウルの空気と重なる瞬間がある。ベトナムは地理的にはASEANの中心なのに、文化の骨格には明らかに東アジアの影が差している。これは私がまだベトナムに渡る前、日本でベトナム人と交流して感じたことでもある。では、なぜそう感じられるのか考えてみた。

文明コードとしては「漢字文化圏」

中国王朝と千年以上向き合った歴史が、儒教・科挙・漢文をベトナムに根付かせた。祖先崇拝や家族序列、学びを尊ぶ姿勢は日本・韓国と同じ文法だ。文字はアルファベット的だが、思考の背骨は漢字文化圏に属している。

国家のかたちが「中華王朝スタイル」

中央集権、官僚制、試験で登用する仕組み――ベトナムの国家構造は東アジア型だ。タイやインドネシアの「ゆるやかな王権」とは明確に異なる。制度のスタイルは中華王朝の影響がある。

宗教風景が「東アジア式」

寺院は金色よりも落ち着いた色合いで、大乗仏教・道教・祖先崇拝が混ざり合う。家庭には祖先棚があり、旧正月には礼儀正しく手を合わせる。これを「東南アジア」と呼ぶより、「東アジアの生活風景」と呼ぶほうが自然だ。

経済圏としてはすでに「東アジアの一部」

工業団地には日本語・韓国語・中国語の表記が並び、サプライチェーンはほぼ東アジアと直結している。ショッピングモールでは無印・ユニクロ・ニトリ・コーナン・韓国コスメ・中国スマホ・台湾のミルクティー店が隣り合う。ASEANにありながら日本と韓国の成長期を思わせる温度を持った国だ。

物語としての「中国との距離感」が東アジア的

ベトナム文化は中国文化と似ているのに歴史では衝突し、独立を勝ち取ってきた。これも日本・韓国も同じ文脈を持つ。だがここで一つ、他の東アジア国と違う点がある。ベトナムは新日国であるということだ。

中国・韓国と異なり、ベトナムには「親日性」という特徴がある

中国・韓国も東アジア文化圏だが、日本への歴史感情には複雑さが残る。一方、ベトナムは植民地となった主な経験がフランスからで、日本との関係は戦後の経済協力と人材交流を通じて「実利的でフラットな関係」が育まれてきた。日本語学習者は東南アジア最多レベル、若者の日本企業就職志向も強い。技能実習生・特定技能生として渡日し、ベトナムへ技術と価値観を持ち帰る循環も始まっている。同じ文化圏に近いのに、反日感情がない国。これは日本にとって極めて貴重だ。

バンコクとの比較でホーチミン市の東アジア性が際立つ

バンコクの空気は微笑みと仏教のゆるさだ。ホーチミン市にも笑顔はあるが、締切と売上が支配する緊張感もある。南国なのに勤勉、陽気なのに真面目。この混合が東アジア性をさらに際立たせている。

ベトナムは「東南アジアに突き出た東アジアの半島」であり、日本に最も近い「東アジアのいとこ」だ。

フォーと半導体、旧正月とスタートアップが同居する国。
ASEANの若さ × 東アジアの学習力 × 親日性という稀有な組み合わせは、今後のベトナムの成長を加速させる鍵になるだろう。

次回は、このベトナムと日本がどう手を組み、何を共創できるかを考えたい。

▪️本記事の執筆者・ヨシヒロミウラは、
ベトナムおよび東南アジアを軸に、社会・経済・文化の変化についての考察を
個人サイト yoshihiromiura.comにて継続的に発信しています。

 

Profile

著者プロフィール
ヨシヒロミウラ

北海道出身。ベトナム在住。武蔵大学経済学部経営学科卒業(マーケティング)。日本とベトナムを行き来する食、教育、人材等のビジネスの現場に関わりながら、現在進行形のベトナム社会を主なフィールドとし、アジア都市の経済・制度・文化の相互作用を観察し、思考、日本語で記録している。
個人ブログ:yoshihiromiura.com
X:@ihiro_x

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