
ベトナムと日本人
ベトナムで思考する日本人 ――この国で見えたアジアの未来
■ 終わらない街のエネルギー
ベトナムに住んでいると、日本とはまったく違う時間の流れを感じる。
朝、街に出るとバイクの洪水が始まる。カフェには若者が集まり、ノートパソコンを開き、スマートフォンを握りながら仕事の話をしている。夜になっても街のエネルギーは消えない。ホーチミン市のレストランや屋台は遅くまで人で溢れ、誰もが次のチャンスを探しているように見える。
この国はまだ完成していない。だからこそ、可能性に満ちている。
■ ベトナムは「発展途上」ではなく「発展最中」
ベトナムに長く住んでいると、日本から見ていたアジアの姿が少しずつ変わってくる。日本にいると、アジアは「発展途上の市場」として語られることが多い。しかし、現場で生活しているとそれは少し違う。
ベトナムは「発展最中」だ。ここには日々変化し、未来に向かう社会の熱いエネルギーがある。
■ 若さがつくる社会の空気
ベトナムの平均年齢は約32歳。日本は約50歳だ。この人口構造の違いは、社会の空気そのものを変える。街を歩く人の多くが若く、彼らは「まだ成長できる」という前提で人生を考えている。
ベトナムの若者と話していると、よくこんな言葉を聞く。「海外で働きたい」「自分のビジネスを作りたい」「もっと上に行きたい」。
その言葉には迷いが少ない。社会がまだ上昇しているとき、人々の思考は自然と未来志向になる。
■ 産業が語る国家の現在地
このエネルギーは産業にも表れている。ベトナムはいま世界有数のバイク生産国であり、多くの電子機器メーカーの生産拠点でもある。サムスンやインテルなどの巨大企業が集まり、サプライチェーンが形成されている。そして最近では、電気自動車メーカーのVinFastが世界市場に挑戦し始めた。
わずか数十年前まで戦争の記憶が残っていた国が、いま世界の産業地図の中で存在感を強めている。
■ 未完成だからこその強さ
もちろん、課題も多い。
都市インフラはまだ整備途上であり、交通や環境問題も深刻だ。制度や行政の仕組みも、日本と比べればまだ未成熟な部分がある。
しかし、この国には一つの強い特徴がある。それは、社会が変化するスピードの速さだ。
新しい制度が生まれ、産業が変わり、街の風景さえ数年で変わる。日本では10年かかる変化が、ここでは数年で起きることも珍しくない。
■ 日本という鏡
ベトナムで生活していると、未来が遠いものではなく、日常の中で動いているように感じる。
そして、もう一つ気づくことがある。それは、日本という国の姿だ。
日本は高度成長時代を過ぎ、成熟した社会である。安定し、秩序があり、生活水準も高い。
しかし同時に、挑戦の余白は少なくなっている。多くの人が「失敗しないこと」を優先し、社会は慎重に動く。
■ 二つの社会の違い
一方で、ベトナムではまだ多くのことが決まっていない。だからこそ、人々は動き続ける。
どちらが正しいという話ではない。それは社会の成熟度の違いなのだ。
■ アジアの未来はどこから生まれるのか
だが、ベトナムで生活していると一つの確信が生まれる。
これからのアジアの未来は、日本だけではなく、こうした成長する社会の中から生まれてくるということだ。
若い人口、都市の拡大、産業の集積、そして未来への期待。それらが重なり合ったとき、新しい経済と文化が生まれる。
ベトナムはその実験場の一つなのかもしれない。
■ ベトナムで思考するということ
私はこの国で生活しながら、アジアの変化を見てきた。そして思う。
ベトナムで思考することは、日本を外から見直すことでもある。
アジアは静かに変わり続けている。その変化の中心に、ベトナムという国がある。
この国の街角で感じるエネルギーは、もしかすると、これからのアジアの未来そのものなのかもしれない。
■ World Voiceへの感謝
本連載を通じて、ベトナムという現場から見える世界を発信する機会をいただいたことに、心より感謝申し上げます。
Newsweek日本版 World Voiceは、世界各地の多様な視点が交差する貴重な場であり、その中で自身の経験や考察を発信できたことは、大きな学びとなりました。
読者の皆様からの反応や共感の声は、現場で考え続ける大きな力となりました。
本連載は一旦区切りとなりますが、ベトナム、そしてアジアの変化はこれからも続いていきます。
引き続き、この地域のリアルを伝えていきたいと思います。
これまでお読みいただき、誠にありがとうございました。
▪️本記事の執筆者・ヨシヒロミウラは、
ベトナムおよび東南アジアを軸に、社会・経済・文化の変化についての考察を
個人サイト yoshihiromiura.comにて継続的に発信しています。

- ヨシヒロミウラ
北海道出身。ベトナム在住。武蔵大学経済学部経営学科卒業(マーケティング)。日本とベトナムを行き来する食、教育、人材等のビジネスの現場に関わりながら、現在進行形のベトナム社会を主なフィールドとし、アジア都市の経済・制度・文化の相互作用を観察し、思考、日本語で記録している。
個人ブログ:yoshihiromiura.com
X:@ihiro_x





















































