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ヨシヒロミウラ|ベトナム

自国予算で都市鉄道建設を始めるベトナム ――ホーチミン市メトロ2号線が示す「発展モデルの転換」

ホーチミン市が現在運行している都市鉄道は日本製だ 撮影:ヨシヒロミウラ

▪️2025年の決断、2026年の着工

2025年、ホーチミン市人民評議会は、地下鉄2号線(ベンタイン〜タムルオン、約11km)を市の予算で建設する方針へ正式に転換することを決議した。そして2026年1月、その工事は実際に着工した。この一連の動きは、単なる財源変更ではない。ベトナムの都市発展モデルが、静かに一段階成熟したことを示している。

▪️ODA依存からの転換

もともとメトロ2号線は、アジア開発銀行(ADB)や欧州系金融機関のODAを柱に進められる計画だった。しかし手続きの長期化や条件調整の難航により、融資協定は期限切れとなり、計画は幾度も停滞した。そこで市が選んだのが、自国予算による推進だった。「待つ」のではなく、「自ら動かす」という決断である。総事業費は約55兆VND。小さな額ではない。それでも自前で進めることで、設計基準や技術仕様、入札プロセスを市側が主導できるようになる。

▪️都市の未来を誰が設計するのか

ここで問われているのは資金規模の問題ではない。「都市の未来を誰が設計するのか」という主権の問題だ。ODAは重要な発展手段である一方、路線ごとに仕様が分断される可能性もある。ホーチミン市は将来、350km規模へと拡張する地下鉄ネットワークを構想している。その標準を自ら決めるという選択は、都市全体の整合性を確保するための戦略でもある。

▪️1000万人都市の時間との闘い

人口1000万人を超えるホーチミン市にとって、交通渋滞は生活の不便さを超え、経済成長を削る構造的課題だ。地下鉄は単なる移動手段ではなく、都市の生産性と競争力を支える基盤である。自国予算で進めるという選択は、意思決定のスピードを上げ、「時間」を取り戻すための試みでもある。2026年1月の着工は、その象徴的な第一歩だ。

▪️「成長する国」から「設計する国」へ

もちろん、国内財源での建設は財政的緊張も伴う。海外技術との協力は引き続き不可欠だろう。それでも今回の決断と着工は、外部資金に依存する発展段階から、自ら都市インフラを設計・管理する段階への転換を明確に示している。ホーチミンで動き始めたメトロ2号線。それは単なる鉄道建設ではない。ベトナムが「成長する国」から「設計する国」へと歩み始めた、その静かな宣言なのだ。

▪️本記事の執筆者・ヨシヒロミウラは、
ベトナムおよび東南アジアを軸に、社会・経済・文化の変化についての考察を
個人サイト yoshihiromiura.comにて継続的に発信しています。

 

Profile

著者プロフィール
ヨシヒロミウラ

北海道出身。ベトナム在住。武蔵大学経済学部経営学科卒業(マーケティング)。日本とベトナムを行き来する食、教育、人材等のビジネスの現場に関わりながら、現在進行形のベトナム社会を主なフィールドとし、アジア都市の経済・制度・文化の相互作用を観察し、思考、日本語で記録している。
個人ブログ:yoshihiromiura.com
X:@ihiro_x

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