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England Swings!

ラッシャー貴子|イギリス

英国クラフトジンの火付け役、Sipsmithの蒸溜所ツアー

ツアーが行われているバーの様子。友人同士やカップルが多かったけれど、ひとりでの参加者もいて、熱心に質問していた。筆者撮影

英国ではジンブームが続いている。新しいクラフトジンが次々と誕生し、歴史ある有名ブランドも新しいフレーバーを出している。ごく普通のパブでもジンが何種類も置いてあって、注文の時に好みの銘柄を尋ねられる。あまり詳しくないので、なんとなく知っている名前を言ってその場をしのぐけれど、その度に、「あれでお願い」なんて言えたらスマートだなあとあこがれる。

それにしても、ジンはいつから英国でこんなに人気が出たんだろう。少なくとも留学生時代はそうではなかったので、前から気になってはいた。そして先日、友人夫妻が誘ってくれて出かけたジン蒸留所のツアーで、偶然にもその答えを見つけることになった。

ツアーに出かけたのは、英国を代表するクラフトジンのひとつ、Sipsmithの蒸留所だ。いまやスーパーや空港の免税店でも売られ、パブでもよく見かける人気ブランドで、今見たら日本でも流通している。Sipsmithという名前は、「じっくり味わって飲む(カクテルによく使われる言葉)」という意味のsipと、「熟練の職人」という意味のsmithを組み合わせた造語だ。

Sipsmithのインスタグラム投稿より、ツアーの動画。Sipsmithではブランドのシンボルに白鳥を使っているが、それは白鳥を表すswanという言葉は、「ジン蒸留器から立ち上がるパイプの曲がった首の部分」という意味もあるからだ。

気持ちよく晴れた金曜の夕方、南西ロンドンに夫と向かうと、静かな住宅地の中に忽然と蒸留所が現れた。敷地内にブランド名の書かれたレトロなバスが停まっていて、車内から陽気なお兄さんが「ようこそ、まずは駆けつけ1杯!(Welcome! Here's to your arrival!)」とジントニックを渡してくれた。あまりに唐突で面食らったけれど、さあ、お楽しみの始まりだよという合図のようで嬉しくなった。

参加者がゆるゆる集まるのを眺めながらチルタイムを楽しんでいると、30人ほど集まったところで、すぐ隣の倉庫のような場所の扉が開いた。ジントニックのグラスを手にしたまま中に入り、ジンの蒸留器の脇に設置されたバーに腰を落ち着けた。

すると先ほどの明るいお兄さんがカウンターの中に立って話を始めた。小さく見えるこの蒸留所でSipsmithの全製品を作っていること、アルコール度数の高い液体を扱うので建物内の喫煙は厳禁であること、という軽いトークの段階でジョークをふんだんに盛り込んでくるので、話にすっかり引き込まれた。

お兄さんの話はSipsmithの歴史から始まった。ロンドンで幼なじみだったサム・グラスワージーとフェアファックス・ホールは、2002年ごろからクラフトビールの人気が高まるのを見て、「それならクラフトジンもいけるはず」と考えるようになった。その後、ジン愛好家のジャレッド・ブラウンも加わって本格的なジンづくりを始めようとしたところ、思いもよらない障害が彼らの前に立ちはだかった。200年前から変わっていなかった法律だ。

Profile

著者プロフィール
ラッシャー貴子

ロンドン在住15年目の英語翻訳者、英国旅行ライター。共訳書『ウェブスター辞書あるいは英語をめぐる冒険』、訳書『Why on Earth アイスランド縦断記』、翻訳協力『アメリカの大学生が学んでいる伝え方の教科書』、『英語はもっとイディオムで話そう』など。違う文化や人の暮らしに興味あり。世界中から人が集まるコスモポリタンなロンドンの風景や出会った人たち、英国らしさ、日本人として考えることなどを綴ります。

ブログ:ロンドン 2人暮らし

Twitter:@lonlonsmile

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