
England Swings!
英国の桜、日本の桜
英国で見る桜は品種がさまざまで、花の色も形も咲く時期もまちまちだ。あちらで白が1本、こちらでピンクが2本というように咲くので、暮らし始めた頃はなんだか物足りなく感じた。わたしのお花見のイメージには、同じ品種を大量に見ることも含まれていたと気がついたのは、ロンドンに住むようになってからだ。
けれど、一本一本の枝ぶりや花の形をじっくり味わう英国式のお花見も、慣れてくるとなかなか味わい深い。バス停の桜は咲くのが少し遅くて、あの公園のは早め、なんて覚えていくのも楽しいし、それぞれの木が独立していて個性に向き合う感じも、どこか英国人を思わせる。
わが家の共同住宅の庭にある若い桜の木。数年前、奥さんを亡くしたご近所さんが植えたものだ。まだわたしの身長くらいの木が花を咲かせるたび、口数の少ない彼が奥さんを思う姿を想像してしまう。筆者撮影
植え方や品種が違っても、桜が英国で愛されていることに変わりはなく、人気はますます高まっているようにわたしには思える。わが家はロンドン西部にある王立植物園、キューガーデンの会員になっていて、植物だよりのメールが毎月送られて来るのだけど、春には「マジカル・タイム(魔法にかかった季節)」などといって桜の花が大々的に紹介される。世界各地の植物が採集された植物園だけあって桜の品種も数多く、春は花見客でにぎわう。
今年はSounds of Blossomというイベントが企画されていたので出かけてみた。朝からよく晴れた日曜日ということもあって、入口はいつも以上の長い行列。小さな子どもから車椅子のお年寄りまでさまざまだ。広い園内でもイベント会場に人が集中しているようだった。
「ブロッサム(木に咲く花)」と銘打ったイベントなので、厳密には桜だけが対象ではないけれど、歩いた限りでは、メインに扱われていたのは桜だった。ピクニックしたり記念写真を撮ったりする人を眺めつつ、展示された詩を読んだり、テントで演奏される弦楽四重奏を聴いたりしてピンクや白の花の間をそぞろ歩く。まさに幸せな英国版桜まつりだった。

- ラッシャー貴子
ロンドン在住15年目の英語翻訳者、英国旅行ライター。共訳書『ウェブスター辞書あるいは英語をめぐる冒険』、訳書『Why on Earth アイスランド縦断記』、翻訳協力『アメリカの大学生が学んでいる伝え方の教科書』、『英語はもっとイディオムで話そう』など。違う文化や人の暮らしに興味あり。世界中から人が集まるコスモポリタンなロンドンの風景や出会った人たち、英国らしさ、日本人として考えることなどを綴ります。
ブログ:ロンドン 2人暮らし
Twitter:@lonlonsmile