コラム

【2020米大統領選】「高齢白人男性」同士の争いを懸念する民主党の支持者たち

2019年05月07日(火)16時00分

3月から4月にかけて、激戦地域であるニューハンプシャー州で10人の民主党候補(カマラ・ハリス、ピート・ブーテジェッジ、アンドリュー・ヤング、コリー・ブッカー、エリザベス・ウォーレン、ベト・オルーク、ジョン・ヒッケンルーパー、ジョン・ディレイニー、タルシ・ガバード、カーステン・ギリブランド)の政治集会に参加し、候補者だけでなく、参加した有権者の多くから話を聞いた。そこから浮かんできたのは、高齢の白人男性たちに対するこういった不満と不安だった。

今回の大統領選で民主党候補の選挙集会に参加したニューハンプシャー州の有権者の大部分が切実な問題として捉えているのは、「気候変動」「人権」「公平な選挙」「収入格差」「雇用」といったものだ。

若者たちは、自分たちの将来に影響がある気候変動問題とAIが職を奪うことで困難になる雇用問題、トランプ政権下で脅かされるようになったLGBTQ、女性、移民、有色人種の人権問題に特に関心があるようだ。

「高齢の白人男性」が懸念されるのは、これら3つの問題を自分のこととして捉えにくいことだ。彼らは生きている間には気候変動の悪影響をさほど受けないし、最新のテクノロジーや経済を理解していない(しようとしない)のでAIが職を奪う未来も想像できない。そして、人種や性のマイノリティ問題は他人事だ。

若手が共有する危機感

ブーテジェッジ(37)、ヤング(44)、オルーク(46)、ガバード(38)、ギリブランド(52)、ディレイニー(56)らの若手は、原子力発電に対する考え方は異なるものの、気候変動そのものは緊急事態であり、アメリカが月着陸を目指したときのような態度で取り組むべきだと考えている。だが、やや高齢のヒッケンルーパー(67)になると「(アレクサンドリア・オカシオコルテスらが提唱する厳しい環境保護政策の)グリーン・ニューディールは現実的ではない」と消極的な態度になりがちだ。

また、ブーテジェッジやヤングはAIが職を奪う未来とその深刻な影響を予見しており、ヤングは「ユニバーサル・ベーシック・インカム」などの急進的かつ具体的な政策を提供している。だが、ベテランのウォーレン(69)は「AIが職を奪う」という見解について「産業革命時代にもそういう意見はあったが、後に間違っていたことが判明した」とはっきりと否定していた。サンダースも、若者の未来よりも、20世紀から続く労働者階級の問題を優先している。

上記のトレイスターやソルニットのような発想から若手のブーテジェッジやオルークなどの「白人男性」が女性候補よりもてはやされていることに不満を抱く女性有権者もいた。だが、2016年にヒラリー・クリントンに票を投じた高齢女性の多くが、「本当は女性に大統領になってほしい。けれども、同性愛者のブーテジェッジはマイノリティだからジェンダー問題を理解してくれる」と好意的にとらえていた。

「高齢者」と「白人男性」に問題を感じる有権者たちが注目しているのが、移民2世であり、黒人の父とインド系の母を持つハリス(54)だ。彼女はタウンホールで参加者の若者から「公的な書類での性別の欄に、全米レベルで男女のほかに第三の選択肢を加えることについて賛成か?」と質問されたとき、「Sure!(もちろん)」と即答した。これまでの政治家のようにキリスト教保守派を気にかけて言葉を濁すことなどなく、真正面から答えたハリスを、聴衆は拍手と歓声で歓迎した。

今回の予備選のもうひとつの特徴は、プロの政治家がよくやる「曖昧な口約束」への嫌悪感と「政治家らしくない率直さ、正直さ、本物らしさ」への渇望だ。

demo190507-02.jpg

カマラ・ハリスに「第3の性別」の選択肢について質問した会場の若者(筆者撮影)

この点でハリスとは逆の例が、人種マイノリティの女性が主催したフォーラムに出席したサンダースだ。「白人愛国主義者や白人テロリストの増加に対する政府の役割は何だと思いますか? あなたが大統領になったらそれに対して最初の1年で何を行いますか?」という聴衆からの質問にサンダースは「私が大統領になったらすべての手を尽くす」とありきたりの返事をした。聴衆の不満な声に応じた司会の女性が「具体的にあなたはどんな政策をするのか」と質問をし直すと、サンダースは「実は私は1963年にワシントンDCのマーチでマーティン・ルーサー・キング博士とご一緒したことがあるので......」と既に誰もが知っている自慢話を切り出した。それに対し、聴衆からは拍手ではなく、不満の声が上がった

プロフィール

渡辺由佳里

Yukari Watanabe <Twitter Address https://twitter.com/YukariWatanabe
アメリカ・ボストン在住のエッセイスト、翻訳家。兵庫県生まれ。外資系企業勤務などを経て95年にアメリカに移住。2001年に小説『ノーティアーズ』(新潮社)で小説新潮長篇新人賞受賞。近著に『ベストセラーで読み解く現代アメリカ』(亜紀書房)、『トランプがはじめた21世紀の南北戦争』(晶文社)などがある。翻訳には、レベッカ・ソルニット『それを、真の名で呼ぶならば』(岩波書店)、『グレイトフル・デッドにマーケティングを学ぶ』(日経BP社、日経ビジネス人文庫)、マリア・V スナイダー『毒見師イレーナ』(ハーパーコリンズ)がある。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏「パウエル議長よりも金利を理解」、利下げ

ワールド

一部の関税合意は数週間以内、中国とは協議していない

ワールド

今年のロシア財政赤字見通し悪化、原油価格低迷で想定

ワールド

中国、新型コロナの発生源は米国と改めて主張 米主張
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 2
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・ロマエとは「別の役割」が...専門家が驚きの発見
  • 3
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 4
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 5
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 6
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    中居正広事件は「ポジティブ」な空気が生んだ...誰も…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 7
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 8
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 9
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 10
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story