コラム

日本の若者、世界でも「気候変動への意識」が低いのは「災害に慣れすぎ」が原因?

2022年09月15日(木)17時35分
西村カリン
夏の東京

DAVID MAREUILーANADOLU AGENCY/GETTY IMAGES

<フランスなどでは「気候変動を原因とする若年層の不安症」が社会問題化しているが、日本ではまだまったく話題になっていない>

最近、フランスのメディアによく出る新しい単語がある。Éco-anxiétéといい、気候変動による不安、気候不安症、エコ不安症などと訳せるだろう。はっきりとした定義はないけれど、要するに「気候変動による災害や環境問題が原因で不安、絶望、ストレス、無力感を感じる症状」だ。特に子供や若年層が感じることが多い。

調べてみたところ多くの国で同じような現象が起きているが、日本ではあまり話題になっていないようだ。例えば、日本経済新聞の記事のデータベースで探せば、「気候変動」の文字が出てくる記事は8348件あったが、「気候不安」は0件だった。「エコ不安」も0件。東京新聞の記事データベースにもなかった。朝日新聞のデータベースには1件あったが、それはアメリカで起きている現象を紹介する記事だった。

つまり、日本の大手メディアはまだ日本での「気候不安」「エコ不安」について何も報じていない。また、2021年夏にイギリスのバース大学が10カ国の若者を対象に国際調査を実施したときも、そこに日本は含まれていなかった。

「気候不安症」は日本にまだ現れていないのか。それともメンタルヘルスケアの分野でまだ気付かれていないのか。いずれにせよ、日本では気候変動の問題に対する意識が、ヨーロッパに比べたら低いのではないかと思う。

今まで想像もしなかった災害が目の前に

フランスの場合は特に今年、気候変動の悪影響は将来ではなく、既にいま表れていると気付いた国民が多い。異常な気象が相次いだからだ。

例えば、パリでも40度を超える高温を記録し、雨が降らなすぎて普段は深い川を歩いて渡ることができるようになり、今まで経験のないほどの暴風や雷、見たことがない規模の山火事などが起きた。そういった状況のなか、変動を肌で感じた若者は非常に強い不安を覚えて、無力感や絶望、場合によっては鬱病に近い状態に陥ってしまった。

つまり、今まで想像もしなかった災害が目の前にあるという恐怖心を抱いている。日本は明らかに違う。気候変動の悪影響を受けていないとは言えないが、ずっと前から大規模災害がたびたび起きている国だから、その変動を感じていない可能性がある。地震や津波、台風、火山の噴火など、フランスにはない現象が昔からあるので、何か災害が起きても「異常」と思わない日本人が多いのかもしれない。

地震、津波、火山の噴火や台風は人間の活動が引き起こす現象ではないが、猛暑日が多くなることや大雨などは昔からの災害とは違う。その違いに対する意識が足りないのではないかと思う。

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