コラム

日本人がコミュニケーション下手なのは、「技術信仰」が原因か

2022年01月21日(金)09時50分
西村カリン
携帯メッセージ

SETSUKON/ISTOCK

<知らない人との気軽な会話を避けがちな日本人は、人との関わりをテクノロジーに頼るようになったことでコミュニケーション下手に拍車が>

私は1996年に観光目的で初めて来日した。当時は音響やビデオの技術者だったので、日本の最先端技術に非常に関心があった。

まず驚いたのは携帯電話。その後何度も日本に来たが、カラー液晶パネルや99年にサービスが開始されたiモードなどを見て、当時世界一だった日本の通信技術は本当にすごいと思った。

けれど同時に、何か危険なことがあるとも感じた。2002年に『移動通信』という本を執筆したときに触れたことだが、それは誰にも会わずに誰とでも意思疎通がうまくできると思ったら、人間同士の本当の交流がなくなり、コミュニケーション能力を失うという危険性だ。

20年がたった今、その問題が現実になりつつある。日本に限った話ではないが、日本は文化的な理由もあり、欧米に比べコミュニケーション能力の低下が深刻化しているのではないかと思う。

日本では、例えば電車や喫茶店で知らない人に話し掛けると「変な人」に見えるリスクが高い。昔はそうではなかっただろうが、フランス人からすると不思議だ。

パンデミックで、さらにこの問題が加速しているような気がする。最近、日本人の大学生向けにいくつかオンライン講演をしたが、ほとんどの学生はビデオ機能を使わず、名前しか画面に表示していなかった。

事前に打ち合わせをした先生からは「質疑応答の時間は15分でいいです。たぶん、ほとんどの学生は質問しないから」と説明された。

講演が面白かったらいろいろ質問が出るだろうと私は思ったが、やはり2人しか質問してくれなかった。

文字でのコミュニケーションが増加

学生たちには知らない人と話す機会がほとんどなくて、いきなり質問するのは恥ずかしく、不安があるのだろう。でもオンラインでも質問ができない学生が対面でできるのか。たぶん難しいと思う。

今19~23歳ぐらいの学生は中学生や高校生のときからずっと携帯電話を使っていて、他人とは通話よりも文字のメッセージでコミュニケーションすることが多い。そうなれば自分の声で話す能力は自然に低下する。予想できた問題なのに、誰も対策を取らなかったと思う。

逆に、どんどん新しい機能が追加されて、機械でのコミュニケーション能力が強化され、問題は悪化する一方だ。文字でのメッセージはまだましで、絵文字などを使えばもっと簡単に自分の気持ちを伝えることができてしまう。

プロフィール

外国人リレーコラム

・石野シャハラン(異文化コミュニケーションアドバイザー)
・西村カリン(ジャーナリスト)
・周 来友(ジャーナリスト・タレント)
・李 娜兀(国際交流コーディネーター・通訳)
・トニー・ラズロ(ジャーナリスト)
・ティムラズ・レジャバ(駐日ジョージア大使)

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

GMメキシコ工場で生産を数週間停止、人気のピックア

ビジネス

米財政収支、6月は270億ドルの黒字 関税収入は過

ワールド

ロシア外相が北朝鮮訪問、13日に外相会談

ビジネス

アングル:スイスの高級腕時計店も苦境、トランプ関税
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「裏庭」で叶えた両親、「圧巻の出来栄え」にSNSでは称賛の声
  • 2
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に...「曾祖母エリザベス女王の生き写し」
  • 3
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 4
    アメリカを「好きな国・嫌いな国」ランキング...日本…
  • 5
    セーターから自動車まで「すべての業界」に影響? 日…
  • 6
    トランプはプーチンを見限った?――ウクライナに一転パ…
  • 7
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、…
  • 8
    『イカゲーム』の次はコレ...「デスゲーム」好き必見…
  • 9
    【クイズ】日本から密輸?...鎮痛剤「フェンタニル」…
  • 10
    日本人は本当に「無宗教」なのか?...「灯台下暗し」…
  • 1
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 2
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...APB「乗っ取り」騒動、日本に欠けていたものは?
  • 3
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に...「曾祖母エリザベス女王の生き写し」
  • 4
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 5
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 6
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 7
    アリ駆除用の「毒餌」に、アリが意外な方法で「反抗…
  • 8
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 9
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップ…
  • 10
    孫正義「最後の賭け」──5000億ドルAI投資に託す復活…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story