コラム

奇跡の戦後経済を食いつぶしてきた日本よ、今こそ「第2の開国」を

2020年12月09日(水)19時00分
石野シャハラン(異文化コミュニケーションアドバイザー)

日本社会は外国人労働者がいなければ成り立たなくなっている Issei Kato-REUTERS

<外国人(それもアジア人)にとって日本はいまや特別に魅力的な国ではなく、いくつもある選択肢の1つでしかない>

長引く新型コロナ禍でもマスク着用など日本人のマナーの良さが目立ったが、同時にいくつかの問題も露呈してしまった。オンライン化の遅れ、相変わらずの通勤ラッシュ、社会的に孤立した人々などである。なかでも意外なのは、いつの間にか日本の労働現場が外国人労働者頼みになっていた、ということではないだろうか。

私の家の近所で大規模な解体工事をやっているのだが、その現場監督さんと話をしても、下請けで働いているのは中国人だという。彼らの機動力は日本人にはないもので、文句も言わずによく働く、彼らがいなければもう解体工事は成り立たない、と言われた。

日本人は、アジアでナンバーワンの地位を長いこと維持してきた。豊かで安全な、アジア随一の先進国であることが日本の誇りであった。私も10年くらい前までは、日本人から事あるごとに「日本はいい国でしょう?」「日本に来て良かったでしょう?」と言われたものだ。

だが、豊かな日本、貧しくてかわいそうな他のアジア、という構図は今や必ずしも成り立たなくなった。確かに今でも日本は豊かで奇麗で安全だが、外国人(それもアジア人)がこぞって勉強や働きに来たい国かというと、そうでもなくなってしまった。

もう日本は、いくつもある選択肢の1つでしかない。いつの間にか、外国人にとって日本は「そんなに稼げない国」で「暮らしにくい国」になってしまった。鳴り物入りで昨年始まった特定技能資格者の受け入れも、目標受け入れ数に遠く及ばないというのが現実である。

こういう話をすると、必ず「日本に外国人は要らない」と言う人が一定数いる。外国人は日本社会になじまない、ルールを守らない、治安が悪くなる、と言うのだ。しかし、もうそんなことを言っている場合ではないと理解している日本人のほうが多数であろう。工事現場・コンビニ・飲食店・介護施設・農家・漁船・工場から一斉に外国人労働者がいなくなってしまったら、どこも運営が成り立たなくなってしまう。

外国人労働者だけではない。香港に国家安全維持法が適用されるようになって、外資企業が他のアジアの都市に本社・拠点(HQ)を移す、というニュースを聞いて私は「さあ、日本の出番だ」と期待したのだが、残念ながら日本に移すというニュースはあまり聞こえてこない。私がドイツ資本の製造企業に勤務していたときも、アジアHQはシンガポールだった。日本は法人税が高く、英語を駆使できる人財(私はあえてこの言葉を使う)が少ないから、アジアHQは置けない、というのは外資企業に働く人の常識である。

プロフィール

外国人リレーコラム

・石野シャハラン(異文化コミュニケーションアドバイザー)
・西村カリン(ジャーナリスト)
・周 来友(ジャーナリスト・タレント)
・李 娜兀(国際交流コーディネーター・通訳)
・トニー・ラズロ(ジャーナリスト)
・ティムラズ・レジャバ(駐日ジョージア大使)

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米政権文書、アリババが中国軍に技術協力と指摘=FT

ビジネス

エヌビディア決算にハイテク株の手掛かり求める展開に

ビジネス

トランプ氏、8月下旬から少なくとも8200万ドルの

ビジネス

クーグラー元FRB理事、辞任前に倫理規定に抵触する
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 2
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃度を増やす「6つのルール」とは?
  • 3
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生まれた「全く異なる」2つの投資機会とは?
  • 4
    ヒトの脳に似た構造を持つ「全身が脳」の海洋生物...…
  • 5
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 6
    「不衛生すぎる」...「ありえない服装」でスタバ休憩…
  • 7
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 8
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 9
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 10
    「腫れ上がっている」「静脈が浮き...」 プーチンの…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前に、男性が取った「まさかの行動」にSNS爆笑
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 8
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 9
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 10
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story