コラム

日本は世界に誇るべき「社会主義国」です

2020年07月27日(月)06時55分
周 来友(しゅう・らいゆう)

POGONICI/SHUTTERSTOCK

<貧しくとも豊かな生活が昔の中国にはあった。だが私の祖国はあれから大きく変わった。移り住んだ日本で、まさか理想の社会主義を見つけるとは思ってもみなかった>

ご存じの読者も多いと思うが、中国は完全なる社会主義国だった。1978年に改革開放が始まるまでは、贅沢こそできないが、皆が平等に暮らせる社会がそこにはあった。

1963年に浙江省紹興市で生まれ、23 歳で来日するまで紹興と北京で生活していた私にとって、思い出深いのが配給制度だ。肉の配給は月に1回、つまり肉にありつけるのは1カ月に1度だけだった。年に1回は「布票」と呼ばれる布の引換券が配られ、それを元に布を購入していた。その布を使って母が、ミシンで新しい服――いわゆる人民服――を作るのだ。

こんな話をすると同情する人もいるかもしれないが、私自身に嫌な記憶はない。むしろ配給は待ち遠しいイベントだったのである。そんな、貧しくとも豊かな生活が昔の中国にはあった。しかし中国は、あれから大きく変わった。

今はむしろ日本のほうが「社会主義国」だ。配給制度こそないけれど、平等で弱者に優しい社会がそこにある。少なくとも私はそう感じる。資本主義の悪い面ばかり取り入れ、社会主義の悪い面ばかり残してしまった祖国。まさか日本で、理想の社会主義を見つけるとは思ってもみなかった。

社会主義が嫌で中国を脱出してきた人の中には、日本が中国よりも社会主義的だと知ってガッカリする人もいる。しかし私は、むしろ最近の中国にガッカリしており、その思いはこの新型コロナウイルス禍でますます強まった。「特色ある社会主義」などとうたっているが、弱者ばかりが割を食うあの弱肉強食社会のどこが社会主義なのか。

日本では教育の機会がおおむね保障されており、大卒で会社に入れば、だいたい皆同じくらいの給料からスタートする。中国もアメリカも過酷な競争社会だが、日本では正社員ならそうそうクビになることはない。また、日本に人種差別がないとは言わないが、中国人として日本で学び、働いてきた私自身は、これまで差別された経験がない。中国ではアフリカ系の人々への差別が深刻だが、それと比べるのはおかしな話だろうか。

それに、日本では医療費が安いため、病気になれば貧しくても医者にかかれるし、スーパーやコンビニ、ファストフード店も多いので、食べ物も割と安価に購入できる。東京ではあちこちでホームレスの人たちを目にするが、彼らも他の国でよく見掛けるような「物乞い」ではない。

【関連記事】コロナ騒動は「中国の特色ある社会主義」の弱点を次々にさらけ出した

プロフィール

外国人リレーコラム

・石野シャハラン(異文化コミュニケーションアドバイザー)
・西村カリン(ジャーナリスト)
・周 来友(ジャーナリスト・タレント)
・李 娜兀(国際交流コーディネーター・通訳)
・トニー・ラズロ(ジャーナリスト)
・ティムラズ・レジャバ(駐日ジョージア大使)

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

日本、ベトナム原発プロジェクトから撤退 期限短いた

ビジネス

午後3時のドルは155円前半を中心にもみ合い、米F

ワールド

ホンジュラス大統領選、結果なお判明せず 国民はいら

ワールド

中国の鉄鉱石輸入、11月は2カ月連続の減少 利幅縮
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 2
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 3
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...かつて偶然、撮影されていた「緊張の瞬間」
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 6
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 7
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 8
    『ブレイキング・バッド』のスピンオフ映画『エルカ…
  • 9
    仕事が捗る「充電の選び方」──Anker Primeの充電器、…
  • 10
    ビジネスの成功だけでなく、他者への支援を...パート…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺るがす「ブラックウィドウ」とは?
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 6
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 7
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 8
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 9
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 10
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story