最新記事

中国

コロナ騒動は「中国の特色ある社会主義」の弱点を次々にさらけ出した

2020年7月23日(木)11時20分
近藤大介(ジャーナリスト) ※アステイオン92より転載

Aly Song-REUTERS


<政治の民主化なくとも経済発展は可能という中国式の社会市場経済(中国模式)は一帯一路を通じて、特に発展途上国の見本となってきた。しかし、新型コロナウイルス問題の発生で状況は一転する。論壇誌「アステイオン」92号は「世界を覆うまだら状の秩序」特集。同特集の論考「習近平の社会思想学習」を2回に分けて全文転載する>

※転載前編:中国経済は悪化していたのに「皇帝」が剛腕を発揮できた3つの理由より続く。

「習近平=神」論

ここ数年、中国は「一帯一路」を通じて、「中国模式」を世界に鼓舞するようになった。すなわち、「政治を民主化しなくても国家の安定した経済発展は可能」という見本を、主に発展途上国に対して示しているのである。これは、世界各地に存在する強権的な国家の広範な賛同を得ていった。

「中国模式」の本質は、民主集中制にある。主権者たる国民(中国では「人民」と呼ぶ)は、自らの政治的権利の一部を、党中央(為政者である習近平総書記)に委任する。党中央は集中された権力を広範な国民の最大利益のために行使するというものだ。

そこでは日米欧の民主国家のような、批判者としての野党、監視者としてのメディア、そして審判者としての有権者という「三つのチェック機能」が働かない。その代わり、共産党に中央紀律検査委員会を設置し、政府に国家監察委員会を設置して「自浄」に努めている。

この「浄化作用」は、地位によらず、法律法規に基づいて万人に適用されることになっている。だが、唯一の例外は習近平総書記である。なぜなら習総書記は「党中央の核心」、中国の伝統にならえば「皇帝様」だからだ。

王岐山副主席(当時は党中央紀律検査委員会書記)は二〇一五年四月二三日、訪中したフランシス・フクヤマ・スタンフォード大学シニアフェローと青木昌彦同大名誉教授らに、「習近平=神」論を披瀝したことがある。

「中国において皇帝というのは、『天子』と呼ばれる神なのだ。中国ではいまでも神が統治するから、司法も必ず党中央の指導のもとに行動せねばならない。各国の最高法である憲法は、人間の手によって書かれた紙切れに過ぎない。だから憲法が定める最高権力者である大統領は、神ではない。また日本には天皇がいて、イギリスには女王がいるが、天皇も女王も神ではない。神がいるのは中国だけだ」

このような思想のもとで、「習近平新時代の中国の特色ある社会主義」が、中国国内で敷衍していったわけである。私は北京、上海はもとより、山東省の農村地帯でも新疆ウイグルの国境地域でも、習近平総書記の巨大なパネル写真と「習近平総書記を核心として全党全軍全民の力を結集しよう!」といったスローガンを見つけた。二〇一八年の夏頃まで、中国はまるで毛沢東時代に回帰したかのようだった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

赤沢再生相、ラトニック米商務長官と3日と5日に電話

ワールド

OPECプラス有志国、増産拡大 8月54.8万バレ

ワールド

OPECプラス有志国、8月増産拡大を検討へ 日量5

ワールド

トランプ氏、ウクライナ防衛に「パトリオットミサイル
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 3
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚人コーチ」が説く、正しい筋肉の鍛え方とは?【スクワット編】
  • 4
    孫正義「最後の賭け」──5000億ドルAI投資に託す復活…
  • 5
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 6
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 7
    「詐欺だ」「環境への配慮に欠ける」メーガン妃ブラ…
  • 8
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 9
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 10
    反省の色なし...ライブ中に女性客が乱入、演奏中止に…
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 3
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコに1400万人が注目
  • 4
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 5
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 6
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 7
    【クイズ】「宗教を捨てる人」が最も多い宗教はどれ?
  • 8
    普通に頼んだのに...マクドナルドから渡された「とん…
  • 9
    砂浜で見かけても、絶対に触らないで! 覚えておくべ…
  • 10
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 5
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 6
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 9
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 10
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中