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コロナ騒動は「中国の特色ある社会主義」の弱点を次々にさらけ出した

米中貿易戦争で揺らいだ中国

この状況を打ち破ったのは、アメリカのドナルド・トランプ政権だった。中国で「習近平皇帝の戴冠式」(二〇一八年三月の全国人民代表大会)の終了を待つかのように、同年三月二二日に突如、トランプ大統領が、中国に対して鉄鋼に二五%、アルミニウムに一〇%の追加関税をかけ、さらに新たに六〇〇億ドル分の中国からの輸入品に、追加関税をかけると宣言したのである。中国に対する貿易戦争の「宣戦布告」だった。

この時、中南海では「対米主戦論」が強まった。太平洋戦争期の日本でも同様だったが、健全な民主主義が機能していないと、「外敵」を前にして、政権は強硬な意見に傾いていくものだ。習近平主席が口にしたと囁かれた「奉陪到底(フェンペイタオデイー)」(最後まで付き合ってやる)という凄みのある言葉を、外交部も商務部も中央電視台(CCTV)も喧伝し、アメリカへの対抗意識を剝き出しにした。

だがこの強硬策は、裏目に出た。アメリカは同年七月に第一弾、八月に第二弾、九月に第三弾と、計二五〇〇億ドルもの中国製品に追加関税をかけ、もともと悪化していた中国経済は、干上がってしまったのである。中国は世界第二の経済大国とはいえ、しょせんはアメリカ経済の三分の二の規模しかない。世界貿易に使われる通貨比率に至っては、米ドルが過半数を占めるのに対し、中国人民元は二%にも満たなかった。

米中がガチンコ勝負すれば、優劣は自明の理だったのである。中国では「雪上加霜(シュエシャンジアシュアン)」(雪の上に霜が加わる=泣きっ面に蜂)という成語が飛び交うようになった。

同年八月、習近平主席は共産党の会議で、初めて「私は自分の偶像崇拝など求めていない」と、釈明を余儀なくされた。同年暮れのブエノスアイレスG20の際に行われた米中首脳会談は事実上、中国側のアメリカに対する「白旗会談」となった。中南海は、二〇一九年が明けてもアメリカへの妥協論に包まれていた。

再び風向きが変わったのは、同年五月である。強気だった中国の「後退」を見て、トランプ政権はディールを終えてチップを確定させればよかったのだが、さらにコインを積んで勝負を続けようとした。その結果、中国が「ちゃぶ台返し」に出たのである。

中国はアメリカとの貿易交渉を中断させ、一年ぶりに「奉陪到底」のスローガンを登場させた。同時に、毛沢東の『持久戦論』の学習運動を始めた。一九三八年夏に、前年からの日中戦争で日本軍に攻め込まれる中、急戦ではなく一時撤退、戦力育成、反撃撃退という持久戦で勝利すると毛沢東が説いた演説集だ。「日本」を「アメリカ」に置き換えて、対米戦争を持久戦で勝ち抜こうというのである。

この米中貿易戦争は、その後も紆余曲折を経て、二〇二〇年一月一五日、両国は妥結に至った。第一段階の合意書に、トランプ大統領と劉鶴(りゅうかく)副首相(習近平主席の中学時代の同級生)がサインした。トランプ大統領が「宣戦布告」してから、実に二年近くが経過していた。

この頃、北京を訪れたが、中国側にアメリカと妥結に至ったという高揚感はなかった。あるのは、諦念とも言えるものだった。ある中国共産党員はこう述べた。

「結局、二年近くに及んだ交渉で悟ったのは、今秋にトランプが大統領に再選されようが、別の誰かが代わろうが、中米対決は長期的かつ全面的なものになるということだ。今後、貿易戦争 → 技術戦争(5Gなど)→ 金融戦争(デジタル通貨など → 局地戦争(南シナ海、東シナ海、台湾など)と、戦線は拡大していくだろう。ともかく二一世紀の中頃までに、アメリカと雌雄を決する」

雌雄を決するのは、まさに二一世紀の人類にふさわしい制度は、アメリカ式資本主義か、それとも中国の特色ある社会主義(中国模式)かということに他ならなかった。

「欧米式の民主制度というのは、互いの戦争を食い止めるための窮余の策として、ここ数百年行っているに過ぎない。しかも破綻を見せている。EUで二番目の経済大国であるイギリスが離脱し、各国で国粋主義が台頭するなど、EU分裂が始まった。アメリカでは、『アメリカ・ファースト』を掲げ、国境に壁を作ったり同盟国との関係を軽視したりするトランプが、第二次世界大戦後のアメリカの理念に挑戦している。このように、先に瓦解していくのは欧米民主国家の方だ。習近平新時代の中国の特色ある社会主義システムは、彼らよりもはるかに強固なのだ」(同前)

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