コラム

ベルリンの中心市街地で自家用車の利用が禁止されるかもしれない

2022年01月27日(木)14時30分

2014年にベルリンの地方議会が作成した報告書によると、ベルリンの街中で車移動するのは3分の1(Sバーンの環状線内では17%)に過ぎないにもかかわらず、交通スペースの58%が車に充てられている。わずか3%が自転車用に確保されているだけだった。

駐車されている車は17平方キロメートルを占めている。ヨーロッパで最も自転車に優しい都市のひとつであるこの都市でも、自動車のためのスペースが自転車のためのスペースの約20倍もあるのだ。交通事故死の4分の3は、歩行者または自転車によるものだった。

迫り来る気候変動対策

2019年3月、欧州議会による「自動車からのCO2排出量に関する事実と数値」という報告書によれば、電気自動車も、生産過程で化石エネルギーを使用し、電気自動車の製造と廃棄は、燃焼機関を搭載した自動車よりも多くのCO2を排出することが報告されている。

さらに、車から排出される細かい粉塵の約15%だけが排気ガスから発生することや、電気自動車にも4つの車輪があり、ほとんどの粒子状物質は、ブレーキやタイヤの摩耗、および道路のほこりが渦巻くことによって引き起こされるからだ。

オートフライによると、ベルリンは海面が上昇する地域ではないが、干ばつやそれに伴う地下水位の低下など、気候変動はベルリンにも大きな影響を及ぼしている。ベルリンでは、すでに水位低下の影響を見ることができ、街では多くの木が枯れていると指摘されている。

もちろん、短期的にはそれほど大きな影響はないかもしれないが、中期的には水道料金が大幅に上昇する可能性が高く、市民全員が影響を受けることになるとオートフライは述べている。さらに心配なのは、パリで数千人の死者を出した2003年の熱波のような極端な気候現象が、より頻繁に起こることを懸念する声もある。

また、最近の研究では、以前は安定していた土地が予想外に沈んでしまう「地盤沈下」が、気候変動によって内陸部で増加する可能性があることもわかってきた。

5万人の賛同署名

オートフライのチームは、2020年4月から行動を起こし、キャンペーンを支援する約50,000人の請願署名を集めた。提案に賛成した市民の数を見て、ベルリン上院は現在このアイデアの実現性を検討しており、2020年3月までに提案が採択されるかどうかについての決定を下す予定だ。

アイデアが市当局によって却下された場合、グループは再び署名を集め、175,000人に到達することを目指す。これにより、2023年には住民投票が自動的に行われ、すべての市民がこの提案の賛否を決定する必要がある。

オートフライの創設者の一人であるニーナ・ノブレは、次のように述べている。「これは、私たちの身の回りの環境と同様に、全体の環境にも関わることです。私たちがどうやって一緒に暮らし、呼吸し、遊ぶかということが重要なのです。私たちは、人々が窓を開けて眠れるようになり、子どもたちが再び通りで遊べるようになってほしいと思っています。また、高齢者が安全に自転車に乗れて、一息つけるベンチがたくさんあってほしい」

takemura20220127_8.jpg

オートフライの創設メンバーのひとり、ニーナ・ノブレ。Initiative Volksentscheid Berlin autofrei / CC by-sa 4.0

プロフィール

武邑光裕

メディア美学者、「武邑塾」塾長。Center for the Study of Digital Lifeフェロー。日本大学芸術学部、京都造形芸術大学、東京大学大学院、札幌市立大学で教授職を歴任。インターネットの黎明期から現代のソーシャルメディア、AIにいたるまで、デジタル社会環境を研究。2013年より武邑塾を主宰。著書『記憶のゆくたて―デジタル・アーカイヴの文化経済』(東京大学出版会)で、第19回電気通信普及財団テレコム社会科学賞を受賞。このほか『さよならインターネット GDPRはネットとデータをどう変えるのか』(ダイヤモンド社)、『ベルリン・都市・未来』(太田出版)などがある。新著は『プライバシー・パラドックス データ監視社会と「わたし」の再発明』(黒鳥社)。現在ベルリン在住。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

IBM、コンフルエントを110億ドルで買収 AI需

ワールド

EU9カ国、「欧州製品の優先採用」に慎重姿勢 加盟

ビジネス

米ネクステラ、グーグルやメタと提携強化 電力需要増

ワールド

英仏独首脳、ゼレンスキー氏と会談 「重要局面」での
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...かつて偶然、撮影されていた「緊張の瞬間」
  • 4
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 5
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 8
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 9
    死刑は「やむを得ない」と言う人は、おそらく本当の…
  • 10
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」が追いつかなくなっている状態とは?
  • 4
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 7
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 8
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 9
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 10
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story