最新記事

世界情勢入門

【地図で読む】この宗教地図が間違っている4つの理由

どの宗教にも多様な宗派があること以外にも、複雑な宗教の実態を地図に表すのが難しい現実がある

2015年11月5日(木)16時55分

 例えば、テロ組織のISIS(自称イスラム国、別名ISIL)はイラクとシリアにまたがる地域を支配し、シリア難民はヨーロッパだけでなく、隣国のトルコ、レバノン、ヨルダンにも多く逃れている。例えば、米軍の駆逐艦派遣により米中の緊張が高まっているのは南シナ海で、そこでは中国以外にも、ブルネイ、フィリピン、マレーシア、ベトナムが領有権を主張している。

 そういったニュースを聞いても、ピンとこない人は少なくないだろう。シリアは中東のどのあたりにある? 南シナ海はどこからどこまでを指す? 日々流れてくるニュースは膨大だし、世界はあまりに複雑だ。いかに大切でも、「世界の今」を理解するのは簡単ではない。

 そんなときに役立つのが、地図だ――。フランスの人気TV番組から生まれた『最新 地図で読む世界情勢 これだけは知っておきたい世界のこと』(鳥取絹子訳、CCCメディアハウス)は、その名のとおり、地図を軸に据えた入門書。フランス地政学の第一人者であるジャン=クリストフ・ヴィクトルと、高校(リセ)の地理・歴史教師であるドミニク・フシャールおよびカトリーヌ・バリシュニコフが、美しい地図と写真でわかりやすく解説している。

 移民や難民、貧困ライン、温室効果ガス、ジェネリック医薬品、スラム街、デジタル・ディバイド、多国籍企業、マイクロクレジット、生物多様性......。「世界のしくみがひと目でわかる!」と謳い、50以上の地図を収録した本書から、5つのテーマを抜粋し、5回に分けて掲載する。

<*下の画像をクリックするとAmazonのサイトに繋がります>


『最新 地図で読む世界情勢
 ――これだけは知っておきたい世界のこと』
 ジャン=クリストフ・ヴィクトル、ドミニク・フシャール、
 カトリーヌ・バリシュニコフ 著
 鳥取絹子 訳
 CCCメディアハウス

※第1回【地図で読む】サッカーもジーンズも、グローバル化でこう変わった:はこちら
※第2回【地図で読む】18歳以下の「子供兵士」は世界に約25万人いる:はこちら
※第3回【地図で読む】国際的な移民の数は世界人口の3%にすぎない:はこちら

◇ ◇ ◇


《人は、お互いが違いすぎるときに、最も共通点を見出すものだ》――ブレーズ・サンドラール[20世紀のスイス出身のフランスの詩人、小説家]

宗教は地図にできるのか?

<上の地図 複雑な現象に対して単純すぎる地図

 この地図は世界の宗教の分布を示すものとして普通に使われているものだが、しかしこれは間違っている。実際、宗教を地図にするのは難しい。というのも、単純化することで大きな間違いをおかすことになるからだ。

[1番目の理由]
同じ宗教の国をまとめて同じ色にしてしまうと、地図ではどの国も同じという印象を与えてしまう。ところが、同じ宗教の国でも、ある国では国民がその宗教を非常に熱心に実践しているのに対し、すぐ隣の国ではその宗教がたんなる文化遺産だったりする。たとえば、洗礼を受けた人はすべてカトリック教徒として数えられているのだが、そのなかのかなりの人は実践していない。

[2番目の理由]
国に色をつけるとき、人口密度を考慮せず、全土を同じ色にしている。たとえば、アフリカ大陸の北半分はイスラム教を示す同じ色になっているが、このなかにあるサハラ砂漠にはほとんど人が住んでいない。したがって、地図では実際とは違ってイスラム教徒が多くいるように見える。

[3番目の理由]
どの宗教も多様に枝分かれし、そこでまた変化して、違う宗派間での争いも多い。たとえばイスラム教をすべて同じ色にすると、スンニ派とシーア派の大きな違いや、この2 大宗派にもいろいろな学派があることがわからない。しかも、各学派は実践の仕方も違えば、その学派が発展した社会の仕組みも違い、学派同士で紛争していることもある。

[4番目の理由]
一つの色が示すのは「多数派」の宗教だけである。そうなると、少数派やアニミズム信仰、あるいはたんに無宗教の人たちは地図からはわからないことになる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

宇宙船オリオン、4人乗せ地球に無事帰還 月の裏側を

ワールド

アングル:イラン戦争でインフレ再燃、トランプ政権に

ビジネス

NY外為市場=ドル下落、中東停戦維持期待で安全資産

ワールド

イラン交渉団がパキスタン到着、レバノン停戦要求 米
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプの大誤算
特集:トランプの大誤算
2026年4月14日号(4/ 7発売)

国民向け演説は「フェイク」の繰り返し。泥沼化するイラン攻撃の出口は見えない

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    バリ島沖の要衝で「中国製水中ドローン」が回収される...潜水艦の重要ルートで一体何をしていた?
  • 2
    古代のパピルスから新たに見つかった「2500年前の文章」...歴史を塗り替えかねない、その内容とは?
  • 3
    停戦合意後もレバノン猛攻を続けるイスラエル、「国防軍は崩壊寸前」
  • 4
    撃墜された米国機から財布やID回収か、イラン側が拡…
  • 5
    目のやり場に困る...元アイスホッケー女性選手の「密…
  • 6
    ポケモンで遊ぶと脳に「専用の領域」ができる? ポ…
  • 7
    中国がイラン戦争一時停戦の裏で大笑い...一時停戦に…
  • 8
    「仕事ができる人」になる、ただ1つの条件...「頑張…
  • 9
    「南東部と東部の前線で480平方キロ奪還」とウクライ…
  • 10
    「地獄を見る」のは米国か──イラン地上侵攻なら革命…
  • 1
    米特殊部隊、米空軍兵士救出「大成功」に残る多くの疑問
  • 2
    古代のパピルスから新たに見つかった「2500年前の文章」...歴史を塗り替えかねない、その内容とは?
  • 3
    バリ島沖の要衝で「中国製水中ドローン」が回収される...潜水艦の重要ルートで一体何をしていた?
  • 4
    韓国、生理用品無償支給を7月から開始 靴の中敷きで…
  • 5
    「南東部と東部の前線で480平方キロ奪還」とウクライ…
  • 6
    イラン戦争の現実...アメリカとイスラエル、見え始め…
  • 7
    「考えの浅い親」が子どもに言ってしまっている口ぐ…
  • 8
    「地獄を見る」のは米国か──イラン地上侵攻なら革命…
  • 9
    撃墜された米国機から財布やID回収か、イラン側が拡…
  • 10
    ポケモンで遊ぶと脳に「専用の領域」ができる? ポ…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    米特殊部隊、米空軍兵士救出「大成功」に残る多くの疑問
  • 3
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 4
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 5
    古代のパピルスから新たに見つかった「2500年前の文…
  • 6
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 7
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 8
    バリ島沖の要衝で「中国製水中ドローン」が回収され…
  • 9
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
  • 10
    メーガン妃、娘リリベット王女との「お手伝い姿」公…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中