コラム

『ナタ2』が大ヒット中だが、中国アニメ映画に世界市場は不要?

2025年02月19日(水)15時00分
ラージャオ(中国人風刺漫画家)/トウガラシ(コラムニスト)
ナタ

©2025 REBEL PEPPER/WANG LIMING FOR NEWSWEEK JAPAN

<春節休暇中に中国アニメ映画『ナタ2』が大ヒット。アニメーション技術もストーリーももはや「パクリ」ではない、中国人が誇りに思える作品だが、観ているのは中国人がほとんどだ>

今年の春節期間中、中国国産アニメ映画『ナタ~魔童大暴れ』の興行収入が、公開から2週間余りで100億元(2100億円)を突破した。過去最速の大ヒットだ。

この映画は、中国で2019年に公開された『ナタ~魔童降臨』の続編。ナタの漢字は「哪吒」。インド神話の登場人物をモチーフにしたこの暴れん坊は、世を混乱させる魔王となる宿命を背負って生まれ、孫悟空のように大暴れしつつ、さまざまな苦難を経験する。しかし、それを自分の運命だと諦めず、最後まで戦い抜く......というストーリーだ。


総計4000人が5年かけて作った人海戦術の大作で、アニメーションの出来も素晴らしい。監督は1980年生まれの餃子(本名・楊宇[ヤン・ユィ])。子供の頃からのアニメファンで、宮﨑駿、押井守、大友克洋といった日本人監督の全作品を見ている。確かに彼の映画の中には『ドラゴンボール』や『千と千尋の神隠し』など、日本アニメの痕跡が残っている。

しかし、ただの日本アニメの「盗版(海賊版)」ではない。差別、偏見や運命の不平等との戦いがテーマとしてしっかり織り込まれており、それが見た人たちの共感を呼んでいる。

餃子は改革開放という最もいい時代に成長した。日本や欧米の科学技術だけでなく、ライフスタイルや娯楽文化も素直に受け入れた世代だ。こうした先進国由来の科学技術や制作手法があってこそ、中国人が誇りに思えるこの国産アニメは誕生した。

プロフィール

風刺画で読み解く中国の現実

<辣椒(ラージャオ、王立銘)>
風刺マンガ家。1973年、下放政策で上海から新疆ウイグル自治区に送られた両親の下に生まれた。文革終了後に上海に戻り、進学してデザインを学ぶ。09年からネットで辛辣な風刺マンガを発表して大人気に。14年8月、妻とともに商用で日本を訪れていたところ共産党機関紙系メディアの批判が始まり、身の危険を感じて帰国を断念。以後、日本で事実上の亡命生活を送った。17年5月にアメリカに移住。

<トウガラシ>
作家·翻訳者·コラムニスト。ホテル管理、国際貿易の仕事を経てフリーランスへ。コラムを書きながら翻訳と著書も執筆中。

<このコラムの過去の記事一覧はこちら>

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