コラム

権威なき少数民族にはここまで残酷になれる、中国の「特色ある」民族差別

2020年09月19日(土)13時00分
ラージャオ(中国人風刺漫画家)/トウガラシ(コラムニスト)

Racism With Chinese Characteristics / (c)2020 REBEL PEPPER/WANG LIMING FOR NEWSWEEK JAPAN

<中国の少数民族弾圧を、欧米の人種差別の考え方で解釈すると誤解することになる>

「1つの民族を滅亡させたいなら、まずその民族の文化を崩壊させる。その文化を崩壊させるため、まずその民族の言葉を消滅させる」――中国人の間で有名なこの言葉は、日中戦争を描く「抗日神劇」のセリフとしてしばしば登場する。旧満州における日本語教育も「日本侵略者の罪」であると、中国政府は愛国教育の中で中国の子供たちに教えてきた。

皮肉にもこれと全く同じことが中国国内で起きた。内モンゴル自治区の学校で始まった、標準語教育を強化しモンゴル語教育を減らす政策への抗議運動に対し、中国政府は「民族分裂」という罪をかぶせてモンゴル人住民を拘束。民族弾圧や人種差別だと、外国メディアは大きく報じた。

ただし、中国の民族弾圧は欧米の人種差別の考え方で解釈すると誤解する。アメリカの人種差別は肌の色や宗教・信仰の違いによる偏見・区別・排除だが、中国では違う。中国において一党独裁政権はいつも偉大・繁栄・無謬(むびゅう)の中心であり、どの民族も心を1つ、思想も1つにして党の周りに団結し、その命令に服従しなければならない。権威主義体制を固めるため、全ての不利益を事前に取り除くことが、中国式の民族弾圧や人種差別の本質ではないか。

内モンゴル自治区で標準語教育を強化するという政策の出発点も、恐らく党を中心とする「良い子」を育てることにあるのだろう。民族文化が崩壊するかどうか、自己中心的な権力者が心配するわけもない。それは共産党が少数民族どころか、漢民族自身の伝統文化まで破壊し続けていることからも分かる。

そもそも今の中国の歴史教科書は「元朝の出現がわが国の統一的多民族国家の発展を促進した」と、モンゴル人王朝を賛美している。つまり、チンギス・ハンは宋王朝を崩壊させた侵略者ではなく、「中国史上の偉人」「民族英雄」と認識されているのだ。満州族による清王朝も同じである。

中国人は金持ちのアラブ人も差別しない。権威あるものになびく、というご都合主義的歴史観の持ち主は、権威なき少数者に対してここまで残酷になれる----ここ数年の中国の行動から学べる教訓だ。

【ポイント】
藏人、维吾尔人、蒙古人

チベット人、ウイグル人、モンゴル人

抗日神劇
中国で制作される日中戦争(抗日戦争)をテーマにしたテレビドラマのうち、内容が荒唐無稽なもの。若者を引き付けるため、手で日本兵を真っ二つに引き裂いたり、国民党女性将校がミニスカート姿だったりと、史実を無視した過激な演出が続出。「神劇(神ドラマ)」と揶揄され、当局が今夏規制に乗り出した。

<本誌2020年9月22日号掲載>

<関連記事:内モンゴルの小中学校から母語教育を奪う中国共産党の非道
<関連記事:ウイグル女性に避妊器具や不妊手術を強制──中国政府の「断種」ジェノサイド

20200922issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

9月22日号(9月15日発売)は「誤解だらけの米中新冷戦」特集。「金持ち」中国との対立はソ連との冷戦とは違う。米中関係史で読み解く新冷戦の本質。

プロフィール

風刺画で読み解く中国の現実

<辣椒(ラージャオ、王立銘)>
風刺マンガ家。1973年、下放政策で上海から新疆ウイグル自治区に送られた両親の下に生まれた。文革終了後に上海に戻り、進学してデザインを学ぶ。09年からネットで辛辣な風刺マンガを発表して大人気に。14年8月、妻とともに商用で日本を訪れていたところ共産党機関紙系メディアの批判が始まり、身の危険を感じて帰国を断念。以後、日本で事実上の亡命生活を送った。17年5月にアメリカに移住。

<トウガラシ>
作家·翻訳者·コラムニスト。ホテル管理、国際貿易の仕事を経てフリーランスへ。コラムを書きながら翻訳と著書も執筆中。

<このコラムの過去の記事一覧はこちら>

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

モディ印首相、中国との「関係改善に尽力」 習主席と

ワールド

インドネシア大統領、訪中取りやめ 首都デモが各地に

ビジネス

中国製造業PMI、8月は5カ月連続縮小 内需さえず

ワールド

ロシア軍参謀総長、前線で攻勢主張 春以降に3500
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:健康長寿の筋トレ入門
特集:健康長寿の筋トレ入門
2025年9月 2日号(8/26発売)

「何歳から始めても遅すぎることはない」――長寿時代の今こそ筋力の大切さを見直す時

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    首を制する者が、筋トレを制す...見た目もパフォーマンスも変える「頸部トレーニング」の真実とは?
  • 2
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体」をつくる4つの食事ポイント
  • 3
    「体を動かすと頭が冴える」は気のせいじゃなかった⋯最も脳機能が向上する「週の運動時間」は?
  • 4
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動…
  • 5
    上から下まで何も隠さず、全身「横から丸見え」...シ…
  • 6
    就寝中に体の上を這い回る「危険生物」に気付いた女…
  • 7
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 8
    シャーロット王女とルイ王子の「きょうだい愛」の瞬…
  • 9
    映画『K-POPガールズ! デーモン・ハンターズ』が世…
  • 10
    世界でも珍しい「日本の水泳授業」、消滅の危機にあ…
  • 1
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ女性が目にした光景が「酷すぎる」とSNS震撼、大論争に
  • 2
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット民が「塩素かぶれ」じゃないと見抜いたワケ
  • 3
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が下がった「意外な理由」
  • 4
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動…
  • 5
    皮膚の内側に虫がいるの? 投稿された「奇妙な斑点」…
  • 6
    飛行機内で隣の客が「最悪」のマナー違反、「体を密…
  • 7
    25年以内に「がん」を上回る死因に...「スーパーバグ…
  • 8
    豊かさに溺れ、非生産的で野心のない国へ...「世界が…
  • 9
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体…
  • 10
    脳をハイジャックする「10の超加工食品」とは?...罪…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 7
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 8
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 9
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 10
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story