コラム

日本・台湾・香港の「コロナ成績表」──感染爆発が起きていないのはなぜ?

2020年04月15日(水)17時00分
ラージャオ(中国人風刺漫画家)/トウガラシ(コラムニスト)

A Coronavirus Grade Report / (c)2020 REBEL PEPPER/WANG LIMING FOR NEWSWEEK JAPAN

<新型コロナの被害を台湾と香港が食い止められたのは「ある意味」中国のおかげ、では日本は...>

中国・武漢から広まった新型コロナウイルスの全世界の感染者数は既に160万人を超え、アメリカやスペイン、イタリアの感染者数はいずれも中国を上回った。

その一方で台湾や香港、日本といった中国周辺の国や地域では感染爆発が起きていない。なぜだろう。

台湾は今回、最も被害を避けられた。その理由はいくつか考えられる。まず昨年夏に中国政府が発表した台湾への個人旅行禁止令。台湾の香港デモ支持や蔡英文(ツァイ・インウェン)総統の訪米などに対する仕返しと考えられ、台湾経済に大きな打撃を与えていたが、結局はそれで台湾人の命が救われた。「人間万事塞翁馬」という言葉そのものだ。

今年1月23日に武漢が封鎖されると、台湾は2月6日に中国人の入境を全面禁止した。台湾は中国の隠蔽体質をよく知っていて、公表されたデータを決して信じないので、迷わず決断した。ちなみにもう1つ、どこよりも早く中国人の入国を禁止した国がある。中国の最も親しい兄弟と称する北朝鮮だ。

香港の対応も素早かった。中国国内で武漢における感染発生がまだ隠され、警鐘を鳴らした医者が警察に処分されていた1月1日前後、一国二制度のおかげで報道の自由がある香港メディアは問題を大きく報道し、市民に注意を呼び掛けた。中国官僚のごまかしをよく知っている香港人が、2003 年のSARS(重症急性呼吸器症候群)の教訓をしっかりと心に刻み、徹底的な対策をしたことも効果的だった。

日本政府の対応はかなりのんびりしていたが、今なお感染者数を抑えているのは国民の生活習慣のおかげだろう。風邪や花粉症対策で日頃からマスクを着用し、帰宅後は玄関で靴を脱ぎ外出着から着替え、寝る前に必ずお風呂......。人と人が対面するときに握手や抱擁はほとんどせず、距離を置きながらお辞儀をする。「どこでも自動ドア」が設置されている。

何より「人に迷惑を掛けない」意識によって、政府が強い指示を出さなくても、日本ではきちんと社会の自粛が成立する。時に日本が世界に比べて劣った点だと指摘された習慣や意識が役立ったのだとすれば、皮肉な話だが。

【ポイント】
日本加油啊...
日本がんばれよ...

人間万事塞翁馬
「世の中は何事も塞翁の馬のようだ」。前漢の思想書『淮南子(えなんじ)』の言葉。昔、中国の北方のとりで近くに住む老人(塞翁)の馬が逃げたが、やがてその馬が別の優れた馬を連れ帰った。その優れた馬に乗った老人の息子が落馬して足を折ったが、おかげで兵役を逃れた──という逸話から、不幸への励ましと幸福への戒めを説いている。

<本誌2020年4月21日号掲載>

20200421issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2020年4月21日号(4月14日発売)は「日本人が知らない 休み方・休ませ方」特集。働き方改革は失敗だった? コロナ禍の在宅勤務が突き付ける課題。なぜ日本は休めない病なのか――。ほか「欧州封鎖解除は時期尚早」など新型コロナ関連記事も多数掲載。

プロフィール

風刺画で読み解く中国の現実

<辣椒(ラージャオ、王立銘)>
風刺マンガ家。1973年、下放政策で上海から新疆ウイグル自治区に送られた両親の下に生まれた。文革終了後に上海に戻り、進学してデザインを学ぶ。09年からネットで辛辣な風刺マンガを発表して大人気に。14年8月、妻とともに商用で日本を訪れていたところ共産党機関紙系メディアの批判が始まり、身の危険を感じて帰国を断念。以後、日本で事実上の亡命生活を送った。17年5月にアメリカに移住。

<トウガラシ>
作家·翻訳者·コラムニスト。ホテル管理、国際貿易の仕事を経てフリーランスへ。コラムを書きながら翻訳と著書も執筆中。

<このコラムの過去の記事一覧はこちら>

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

英国王夫妻、トランプ米大統領夫妻をウィンザー城で出

ビジネス

三井住友FG、印イエス銀株の取得を完了 持分24.

ビジネス

ドイツ銀、2026年の金価格予想を4000ドルに引

ワールド

習国家主席のAPEC出席を協議へ、韓国外相が訪中
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェイン・ジョンソンの、あまりの「激やせぶり」にネット騒然
  • 2
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、日本では定番商品「天国のようなアレ」を販売へ
  • 3
    中国は「アメリカなしでも繁栄できる」と豪語するが...最新経済統計が示す、中国の「虚勢」の実態
  • 4
    ケージを掃除中の飼い主にジャーマンシェパードがま…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 7
    腹斜筋が「発火する」自重トレーニングとは?...硬く…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「リラックスできる都市」が発…
  • 9
    「この歩き方はおかしい?」幼い娘の様子に違和感...…
  • 10
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 4
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 5
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 6
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 7
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    埼玉県川口市で取材した『おどろきの「クルド人問題…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story