コラム

富裕層の海外留学は中国大学受験のずるい抜け道

2018年06月21日(木)11時00分
ラージャオ(中国人風刺漫画家)/唐辛子(コラムニスト)

(c)2018 REBEL PEPPER/WANG LIMING FOR NEWSWEEK JAPAN

<毎年6月に実施される高考(全国統一大学入試)に向けて中国の受験生は「受験工場」での猛勉強に追われるが、富裕層の子弟は中学から海外に留学して名門大学にも楽々入学できる>

白(パイ)おばあさんは79歳、孫と2人暮らし。孫が1歳の時に両親は離婚した。かわいそうな子だ、大学に行かせて出世させようと思って、白おばあさんは借金をして実家を離れ、孫を安徽省の毛坦廠中学に入学させた。

受験生活を支えるために付き添って下宿でご飯を作り、日常の世話をする親たちを中国語で「陪読家長(付き添いの保護者)」と呼ぶ。毛坦廠中学の受験生は2万人以上、「陪読家長」も1万人を超える。白おばあさんはその中の1人なのだ。

これは中国のドキュメンタリー映画にあった実話だ。毛坦廠中学は山奥にあるが、大学合格率は常に90%超。生徒は毎朝5時半起床、6時20分には教室で自習開始。トイレの時間も厳しく制限され、昼食と夕食の各40分間以外はひたすら勉強、勉強、勉強。一日が終わり、下宿に戻るのは夜11時。翌朝はまた5時半に起床して軍隊のような一日を繰り返す。中国メディアから「アジア最大の受験工場」と呼ばれるほどだ。

毛坦廠中学の生徒はほとんどが普通の労働者家庭の子供で、親はよい教育を受けたことがなく、せめて子供を大学へ行かせて、将来は自分より楽な生活ができるようにと望んでいる。毛坦廠中学に匹敵するもう1つの受験工場が河北省の衡水中学だが、ここの生徒は中流家庭の子供が多く、目指しているのは超難関の「清華・北大」(清華大学と北京大学)。この学校の「清華・北大」合格者数は毎年少なくとも100人を超える。

中国の高考(全国統一大学入試)は毎年6月上旬に行われる。今年の受験者数は975万人。受験工場は各地にたくさんあるが、毛坦廠中学や衡水中学のような有名な学校も負け組のほうに属している。というのは、高考によって人生を変えようというのはそもそも負け組の考えなのだ。

勝ち組である高所得層の子供たちは中学から直接海外へ留学し、ハーバード大学やケンブリッジ大学などを目指す。たとえ海外の一流大学に合格できなくても国籍を変えるか、海外に2年間滞在すれば、外国人留学生として楽々「清華・北大」に入学できる。

つまり、貧富の格差によってスタートラインは既に違っている。中国の膨大な数の普通の受験生は、どんなに頑張ってもごく一部の「勝ち組」に勝つことはできないのだ。

【ポイント】
中学

毛坦廠中学は日本の高校に当たる高級中学。小学校の6年と日本の中学に当たる初級中学の3年が中国の義務教育

清華・北大
名門中の名門である清華大学と北京大学は多くの指導者を輩出してきた。現在の習近平国家主席は清華大卒、李克強首相は北京大卒

<本誌2018年6月26日号掲載>


【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガのご登録を!
気になる北朝鮮問題の動向から英国ロイヤルファミリーの話題まで、世界の動きを
ウイークデーの朝にお届けします。
ご登録(無料)はこちらから=>>

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米、ICCに設立条約の修正要求、トランプ氏らの訴追

ワールド

米銀大手9行に「デバンキング」行為、規制当局が報告

ワールド

インタビュー:中国人の不動産爆買い「ピーク過ぎ、今

ワールド

韓国ハンファ、水中ドローン開発で米防衛スタートアッ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア空軍の専門家。NATO軍のプロフェッショナルな対応と大違い
  • 2
    トランプの面目丸つぶれ...タイ・カンボジアで戦線拡大、そもそもの「停戦合意」の効果にも疑問符
  • 3
    「何これ」「気持ち悪い」ソファの下で繁殖する「謎の物体」の姿にSNS震撼...驚くべき「正体」とは?
  • 4
    死者は900人超、被災者は数百万人...アジア各地を襲…
  • 5
    【クイズ】アジアで唯一...「世界の観光都市ランキン…
  • 6
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 7
    「正直すぎる」「私もそうだった...」初めて牡蠣を食…
  • 8
    「安全装置は全て破壊されていた...」監視役を失った…
  • 9
    イギリスは「監視」、日本は「記録」...防犯カメラの…
  • 10
    悪化する日中関係 悪いのは高市首相か、それとも中国…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 6
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 7
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 8
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 9
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 10
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story