コラム

ウガンダのナイトライフ写真集『Fuck It』に、フォトジャーナリストが辿りついた理由

2019年01月31日(木)11時45分

From Michele Sibiloni @michelesibiloni

<写真に対する危機感を覚え、首都カンパラをベースに、ナイトライフにどっぷり浸かっていったイタリア人写真家のミケーレ・シビローニ>

以前にもこのブログで触れているが、写真には2つの大きな特性がある。1つはファインダーという窓を通して、自身の外側にある世界を可能な限り客観的に見つめること。もう1つは、そのファインダーの窓を通しながら、その世界に自分のメタファーを投影することだ。

それは、バランスの違いこそあれ、ドキュメンタリー、フォトジャーナリズムでも同じだ。だが、この手のジャンルの写真家がそれを、とりわけ若い頃から意識することは稀だ。

今回取り上げるのは、そんな意識を持てている写真家の1人である。ウガンダ在住のイタリア人、ミケーレ・シビローニ。同国の首都カンパラのナイトライフ・シリーズで、一躍名を馳せた37歳の写真家だ。

2012年までのシビローニは、アフリカ、中東を中心に、ある種典型的なフォトジャーナリストとしての活動を行っていた。だが、写真に対する危機感を覚え始める。自分の撮った写真に自分自身を感じることができなかったからだ。自分のためではなく、たぶんクライアントやエージェンシーのために撮影していたからだ、と彼は言う。

以後、自己分析的な内面へのプロセス、あるいは自らの興味の対象に忠実になる。そしてそれは、夜のシーンだった。

2012年からカンパラをベースとし、その街を第二の故郷として、非日常的ともいえるナイトライフにどっぶり浸かっていくことになる。それを自らのパーソナル・プロジェクトとして撮影していくことになったのだ。その成果は2016年、写真集『Fuck It』として出版され、タイム誌により同年のベスト写真集の1つにも選ばれた。

『Fuck It』、あるいは以後も継続されているウガンダや他の地区でのナイトライフ・シリーズの主な被写体は人物だ。例えば、アスカリ(寄生虫)と呼ばれる弓矢を構えた夜の警備員、さらには放浪者、娼婦、ダンサー、タクシードライバー、酔っ払い、ブリーチヘアのホームボーイたち......。その多くは、ワイルドな生活感にあふれた、酒とパーティー好きな人々だ。

ただ、こうした被写体は、ある意味ではステレオタイプかもしれない。外国人写真家が、好んで撮影するネタでもあるからだ。

とはいえ、シビローニの作品はそれだけではない。1つには、彼独特のアイコンタクトによるコミュニケーションがある。彼の才能とフォトジャーナリストとして経験がもたらしたものだが、写真に親近感と緊張感という、ある種相反する要素を同時に生み出しているのである。

プロフィール

Q.サカマキ

写真家/ジャーナリスト。
1986年よりニューヨーク在住。80年代は主にアメリカの社会問題を、90年代前半からは精力的に世界各地の紛争地を取材。作品はタイム誌、ニューズウィーク誌を含む各国のメディアやアートギャラリー、美術館で発表され、世界報道写真賞や米海外特派員クラブ「オリヴィエール・リボット賞」など多数の国際的な賞を受賞。コロンビア大学院国際関係学修士修了。写真集に『戦争——WAR DNA』(小学館)、"Tompkins Square Park"(powerHouse Books)など。フォトエージェンシー、リダックス所属。
インスタグラムは@qsakamaki(フォロワー数約9万人)
http://www.qsakamaki.com

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米ウクライナ首脳、日本時間29日未明に会談 和平巡

ワールド

訂正-カナダ首相、対ウクライナ25億加ドル追加支援

ワールド

ナイジェリア空爆、クリスマスの実行指示とトランプ氏

ビジネス

中国工業部門利益、1年ぶり大幅減 11月13.1%
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 2
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指すのは、真田広之とは「別の道」【独占インタビュー】
  • 3
    【世界を変える「透視」技術】数学の天才が開発...癌や電池の検査、石油探索、セキュリティゲートなど応用範囲は広大
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 6
    中国、米艦攻撃ミサイル能力を強化 米本土と日本が…
  • 7
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 8
    なぜ筋肉を鍛えても速くならないのか?...スピードの…
  • 9
    【銘柄】子会社が起訴された東京エレクトロン...それ…
  • 10
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 6
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 7
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 8
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 10
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story