コラム

画家のムンクを思わせる、エジプト革命の写真

2017年03月29日(水)17時41分

From Laura El-Tantawy @laura_eltantawy

<イスラムと西洋という2つの世界で育ってきたローラ・エル・タンタウィは、2011年のカイロの民主化運動に遭遇し、新たな自分探しの旅に出た>

自分探しは、その試み方やそれに費やす量の違いこそあれ、我々人間が直面する宿命的なものの1つ。それは写真家にとっても同じだ。それが写真家の作品づくりの中心になることもある。

今回紹介するローラ・エル・タンタウィもその1人だ。イギリスのロンクスウッドという小さな村にエジプト人の両親のもとで生まれ、その後まもなくカイロに移ったが、大人になるまでの人生の大半はサウジアラビアとアメリカで過ごしたという女性写真家だ。36歳ながら、ドキュメンタリーと自身の心象風景をオーバーラップさせた作品は、さまざまな国のアートギャラリーや美術館で紹介されている。インスタグラムで紹介している作品の大半も、彼女自身の心の動きをメタファー化したものだ。

エル・タンタウィを一躍有名にしたのは、2011年にカイロのタハリール広場で起こった民主化運動、ムバラク大統領を失脚させたエジプト革命である。その民主化の動きを、人々の感情の爆発と悲しみを、ノンフィクションでありながら、どこか画家のムンクを思わせるような、シュールなタッチで撮影した作品群だ。

彼女の経歴を知っている者なら不思議に思っただろう。なぜなら、エル・タンタウィは、アメリカで2002年から2005年までの3年間、フォトジャーナリストとして新聞社で働いていたからだ。それなのに、彼女の写真は新聞社での典型的な撮り方とまったく異なるのである。

だが、彼女のことをさらに知れば納得し、脱帽せざるを得ないかもしれない。すでに触れたように彼女は、イスラムと西洋という2つの異なる世界で育っている。それはある種、諸刃の剣のように彼女に大きな影響を与えた。異なる文化や価値観の中で生まれ育ったことが、彼女の感受性をより豊かにし、同時に彼女自身の中に大きな葛藤をもたらしたのだ。

【参考記事】仏教的かキリスト教的か、イスラム教的か、混乱させる写真

Hands That Say What No Words Should - London, UK 7/9/2016 #beyondhereisnothing #home #instagood #instamood

Laura El-Tantawyさん(@laura_eltantawy)がシェアした投稿 -

プロフィール

Q.サカマキ

写真家/ジャーナリスト。
1986年よりニューヨーク在住。80年代は主にアメリカの社会問題を、90年代前半からは精力的に世界各地の紛争地を取材。作品はタイム誌、ニューズウィーク誌を含む各国のメディアやアートギャラリー、美術館で発表され、世界報道写真賞や米海外特派員クラブ「オリヴィエール・リボット賞」など多数の国際的な賞を受賞。コロンビア大学院国際関係学修士修了。写真集に『戦争——WAR DNA』(小学館)、"Tompkins Square Park"(powerHouse Books)など。フォトエージェンシー、リダックス所属。
インスタグラムは@qsakamaki(フォロワー数約9万人)
http://www.qsakamaki.com

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

カナダ首相、トランプ氏と6日会談 ワシントンで

ワールド

ガザ封鎖2カ月、食料ほぼ払底 国連「水を巡る殺し合

ワールド

トランプ氏、ハーバード大の免税資格剥奪と再表明 「

ワールド

ロシア、ウクライナ北東部スムイの国境に「安全地帯」
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得る? JAXA宇宙研・藤本正樹所長にとことん聞いてみた
  • 3
    インドとパキスタンの戦力比と核使用の危険度
  • 4
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 5
    目を「飛ばす特技」でギネス世界記録に...ウルグアイ…
  • 6
    宇宙からしか見えない日食、NASAの観測衛星が撮影に…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    金を爆買いする中国のアメリカ離れ
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 5
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 8
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が…
  • 9
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story