コラム

緩やかな人民元安か暴落か、2つの可能性

2015年12月16日(水)17時00分

今日の人民元安が、介入を減らした結果なら歓迎できるが Yestock-iStock.

 このところ人民元安が続いています。これが、当局が為替介入を減らした結果であれば、私は高く評価したいと思います。元安に振れようとするマーケットに対して通貨当局が元買い(ドル売り)介入をすればするほど、外貨準備は減り、さらなる元安観測や資本逃避懸念が高まるというスパイラルに陥る可能性が否定できなくなります。人民元暴落シナリオです。為替介入を減らし、外貨準備の無駄遣いを抑えることで、こうしたリスクシナリオ発生の可能性を低めることができるからです。

 国際通貨基金(IMF)は2015年11月30日、SDR(特別引出権)に人民元を採用することを正式に決定しました。SDRとは世界の主要通貨が構成する準備通貨であり、IMF加盟国が通貨危機等に陥った際に、加盟国が保有するSDRをSDR構成通貨と交換することができます。2016年9月末までは米ドル41.9%、ユーロ37.4%、スターリングポンド11.3%、日本円9.4%の4通貨で構成されます。2016年10月1日以降はSDR構成通貨に人民元が加わり、構成比はドル41.73%、ユーロ30.93%、人民元10.92%、円8.33%、ポンド8.07%となることが決定されました。

 それに先立つ8月11日、中国人民銀行(中央銀行)が人民元の対ドル中間レート中国人民銀行がマーケットレートをもとに毎朝発表する為替レートです。対ドルの人民元の1日の変動幅はこの中間レートの±2%に規制されています)の算出方法の変更を発表したのは、人民元のSDR採用を巡りIMFが問題視していたマーケットレートと中間レートの乖離を是正することが目的でした。しかし、これは中国人民銀行の声明文には明記されず、少なくとも当時、広く認識されていたとはいえませんでした。このため、算出方法の変更を機に中国政府が輸出テコ入れのため人民元安誘導に踏み切り、通貨安戦争が始まるといった疑心暗鬼が生まれ、8月中旬にはアジアの新興国通貨が対ドルで大きく下落しました。さらに、元安誘導をせざるを得ないほど中国の景気は悪化しているとの思惑から日本株が大幅安になるなど、世界の為替・株式市場の動揺を招きました。

恣意的と批判されていた中間レートを改善

 8月11日以降、人民元の対ドル中間レートは、前日のマーケット終値を参考に決定されることになりました。従来、為替市場のレートと中国人民銀行が発表する中間レートは断絶されていました。制度変更前には、マーケット終値が中間レートに対して2%近い元安で引けても、翌日の中間レートは前日と変わらない水準で設定されるなどしていました。中国人民銀行は中間レートをブラックボックスの中で恣意的に設定し、中間レートとは名ばかりのものであると批判されていたのはこのためです。これが、8月11日以降は前日の終値を参考とすることになり、マーケットと中間レートに連続性がでるようになりました。

プロフィール

齋藤尚登

大和総研主席研究員、経済調査部担当部長。
1968年生まれ。山一証券経済研究所を経て1998年大和総研入社。2003年から2010年まで北京駐在。専門は中国マクロ経済、株式市場制度。近著(いずれも共著)に『中国改革の深化と日本企業の事業展開』(日本貿易振興機構)、『中国資本市場の現状と課題』(資本市場研究会)、『習近平時代の中国人民元がわかる本』(近代セールス社)、『最新 中国金融・資本市場』(金融財政事情研究会)、『これ1冊でわかる世界経済入門』(日経BP社)など。
筆者の大和総研でのレポート・コラム

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

プライベートクレジット、来年デフォルト増加の恐れ=

ワールド

豪銃撃、容疑者は「イスラム国」から影響 事件前にフ

ワールド

スーダン、人道危機リストで3年連続ワースト1位 内

ワールド

スマトラ島洪水、活動正常化には数カ月=プラボウォ大
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連疾患に挑む新アプローチ
  • 4
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 5
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 6
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 7
    アダルトコンテンツ制作の疑い...英女性がインドネシ…
  • 8
    「なぜ便器に?」62歳の女性が真夜中のトイレで見つ…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    現役・東大院生! 中国出身の芸人「いぜん」は、なぜ…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 3
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の脅威」と明記
  • 4
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 7
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 8
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 9
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 10
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキ…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story