最新記事
環境

欧州で広がる「スローファッション」の逆襲...SHEINやTemuを待ち受ける「過酷な未来」とは?

TO SLOW DOWN FAST FASHION

2025年12月16日(火)14時29分
アルベルト・ナバロ・ガルシア (ジローナ大学教授)
シーインのパリのデパートへの出店に抗議する人々

シーインのパリのデパートへの出店に抗議する人々 SAMUEL BOIVINーNURPHOTOーREUTERS

<中国から押し寄せる大量の激安衣料品を抑え込むべく、ヨーロッパ各国は次々に規制に乗り出している──>

ご存じだろうか。コットンのTシャツを1枚作るのに約2700リットルの水を使う。これは1人がほぼ3年間に飲む量に相当する。

流行の服を安く提供するのがファストファッションの強みだが、その裏には見過ごせない現実がある。ヨーロッパでは消費者1人が年間12キロの繊維ゴミを出し、うち新しい服に再生されるのは1%だけだ。


目まぐるしいサイクルで安価な服を大量に生産するファストファッション。その圧倒的な物量とスピードにブレーキをかけようと、ここ数年EUとヨーロッパ各国がさまざまな施策を導入している。

EU

EUの共通税制である付加価値税(VAT)は22ユーロ未満の低額製品には免除されていた。そのため低価格の中国系Eコマース・SHEIN(シーイン)やTemu(テム)の大攻勢に対し、EU域内のアパレル企業が競争上不利になっていた。

そこでEUは規則を改正。2021年7月以降はEU域外からの全輸入品にVATを課すことになった。

欧州委員会はさらに全ての輸入貨物に2ユーロの通関手数料を課すことも検討している。また現状では150ユーロ未満の少額貨物には関税が免除されているが、この免税措置の撤廃も検討されている。

こうした措置は、労働者を酷使し、環境を汚染する製法で生産されたアパレル製品への規制強化につながり、中国勢をはじめファストファッション企業に大きな影響を与えるとみられる。

フランス

フランスはヨーロッパ各国に先駆けてファストファッションを規制する課徴金制度を導入した。

これにより「ウルトラファストファッション」に分類されるテムなどの格安Eコマースは衣料品1点につき5ユーロの課徴金の納付を義務付けられる。課徴金の額は段階的に引き上げられ、30年には10ユーロとなる。企業は課徴金分のコストを製品価格に転嫁せざるを得ないだろう。

フランス政府は今回の規制で明白なメッセージを打ち出した。それは「1シーズンしか持たないような激安の衣料品を売る企業は環境に与えるコストを負担すべき」というものだ。

激安アパレルへの規制措置は、長く着用できる上質な服を作り、回収・リサイクルに取り組むなど環境負荷の低減に貢献する企業にとっては追い風となる。

良い服を長く着る時代に

修繕して長く使うことを奨励する方策を打ち出した国もある。スウェーデンは衣料品と靴の修繕費に対するVATを25%から12%に引き下げた。オランダもサイズ直しなどのVATを9%に下げている。

こうした施策の狙いは明らかだ。壊れたら新品を買うのではなく、修繕して長く愛用するほうが環境にも財布にも優しい──そんな「新常識」を定着させることである。

EUのVAT改正の影響は既に表れている。免税撤廃で公正な競争が担保され、格安Eコマースは価格設定やロジスティックス戦略の見直しを迫られている。修繕費のVAT引き下げは地域の零細な修繕業者の支援だけでなく、消費者の行動を変えつつある。

安い使い捨ての服を買いまくる時代は終わり、これからは多くの人が質の良い服を大切に長く着るようになるだろう。規制措置が定着すれば、ヨーロッパの繊維産業は「スローファッション」の騎手として世界をリードするはずだ。

The Conversation

Albert Navarro García, Profesor titular de Derecho Financiero y Tributario, Universitat de Girona

This article is republished from The Conversation under a Creative Commons license. Read the original article.

POINT(ニューズウィーク日本版SDGs室長 森田優介)

newsweekjp20250624060949.png 変革には企業努力だけでなく政策の後押しも重要です。「負のインセンティブ」としては1991年にスウェーデンが導入し、CO2削減に寄与した炭素税が有名ですが、このVATもそれに近いものと言えるでしょう。

ニューズウィーク日本版 「外国人問題」徹底研究
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2026年1月27号(1月20日発売)は「『外国人問題』徹底研究」特集。「外国人問題」は事実か錯覚か。移民/不動産/留学生/観光客/参政権/社会保障/治安――7つの争点を国際比較で大激論

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


事件
ニューズウィーク日本版メンバーシップ登録
あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

英中銀のグリーン委員、インフレ圧力を依然懸念

ワールド

デンマーク首相、NATO事務総長と北極圏の安全保障

ワールド

イラン、核施設査察に条件提示 6月の攻撃巡りIAE

ワールド

中国、国連専門家の声明に反発 ウイグル強制労働疑惑
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:「外国人問題」徹底研究
特集:「外国人問題」徹底研究
2026年1月27日号(1/20発売)

日本の「外国人問題」は事実か錯誤か? 7つの争点を国際比較で大激論

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コングスベルグ社のNSMにも似ているが...
  • 2
    【銘柄】「古河機械金属」の株価が上昇中...中国のレアアース規制で資金が流れ込む3社とは?
  • 3
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡張に新たな対抗手段
  • 4
    データが示す、中国の「絶望的な」人口動態...現実味…
  • 5
    ニュージーランドの深海に棲む、300年以上生きている…
  • 6
    ラブロフ、グリーンランドは‌デンマーク​の「自然な…
  • 7
    老化の9割は自分で防げる...糖質と結び付く老化物質…
  • 8
    韓国が「モンスター」ミサイルを実戦配備 北朝鮮の…
  • 9
    40代からは「積立の考え方」を変えるべき理由──資産…
  • 10
    コンビニで働く外国人は「超優秀」...他国と比べて優…
  • 1
    上野公園「トイレ騒動」に見る、日本のトイレが「世界一危険」な理由
  • 2
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コングスベルグ社のNSMにも似ているが...
  • 3
    ピラミッドよりも昔なのに...湖底で見つかった古代の船が明かす、古代の人々の「超技術」
  • 4
    【銘柄】「古河機械金属」の株価が上昇中...中国のレ…
  • 5
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 6
    韓国『日本人無料』の光と影 ── 日韓首脳が「未来志向…
  • 7
    ニュージーランドの深海に棲む、300年以上生きている…
  • 8
    完全に「ホクロ」かと...医師も見逃した「皮膚がん」…
  • 9
    世界最大の埋蔵量でも「儲からない」? 米石油大手が…
  • 10
    中国のインフラ建設にインドが反発、ヒマラヤ奥地で…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した─…
  • 6
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 7
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 8
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 9
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 10
    前進するロシア、忍び寄る限界...勝者に見えるプーチ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中