コラム

止まらない中国株安、底入れの近道は?

2016年01月27日(水)17時53分

中国株の売買代金の8割は中国政府のコントロールが効かない個人投資家 China Daily-REUTERS

 年初から中国株安が止まりません。中国政府に求められるのは、まずは、市場を歪める政策対応で混乱を長引かせることをやめることです。そして、景気減速に歯止めをかけることが最も重要です。株式市場を取り巻く経済のファンダメンタルズを改善することこそが、遠回りに見えて、実は、株価底入れの近道だと思えます。

 中国の株式市場が年初から大荒れの展開となっています。代表的な株価指数である上海総合株価指数は2016年1月26日に前日比6%以上下落し、年初からは2割以上急落しました。その背景には、歯止めのかからない景気減速や、年初の元安進展がドル建て債務を抱える企業の返済負担増加懸念を高めたことがあります。しかし、それだけではありません。当局による政策対応の拙さが嫌気され、投資家が株式市場からそっぽを向いてしまったというのも大きな要因でしょう。

 年初から導入されたサーキットブレーカー制がそのいい例です。相場が一方向に振れやすく、1日の株価の値動きが大きくなりがちな中国市場で、15分間の取引停止時間中に冷静になって欲しい、という方が無理な話です。結局、サーキットブレーカー制は売り圧力を高めただけで、導入後4日間で暫定停止とされました。

 他にも、昨年7月8日に証券当局は、大株主に対して向こう6ヵ月間の株式売却を禁止しました。保有株を自由に売れないという政策はそもそも大問題です。しかし、こうしたなりふり構わない政策を実行した以上、その後始末をきちんとすることも当局の務めです。普通の政策当局者なら売却禁止期間明けのソフトランディングを考えるものですが、年が明けても対策は発表されず、売却解禁を前に株式需給悪化を懸念した思惑売りが急増しました。大株主の株式売却に制限をかけたのは、株価急落後であり、対応は完全に後手に回ったのです。

中国政府は株価を制御できない

 個人投資家が売買代金の8割を占める市場で、残りの2割の機関投資家をいくらコントロールしても株式市場を制御することは不可能です。にもかかわらず、中国政府は株式市場をコントロールできるとの認識を持ち続け、様々な政策対応を打っているが、それが効かなかったり、裏目に出ているというのが、今、中国の株式市場で起きていることです。

 それでは、株価急落による中国経済への影響はどうなのでしょうか? 結論を先に言いますと、影響は限定的です。上海総合株価指数は、昨年は6月中旬にかけて急騰し、年初からは6割近く上昇しましたが、消費への影響は小さく、自動車も売れませんでした(10月以降は車両購入税の半減措置によって販売が急増しています)。日本では、中国の人々は老いも若きも株式投資に熱中しているとの印象があるかもしれませんが、人口に対する証券口座開設数は日本よりも少ないのが実情です。また、株価と消費の連動性は低い一方で、住宅価格と消費の連動性は比較的高くなっています。幸いなことに、中国の住宅価格(前年同月比)は2015年10月に14ヵ月ぶりに上昇に転じ、その後も上昇傾向が続いています。

プロフィール

齋藤尚登

大和総研主席研究員、経済調査部担当部長。
1968年生まれ。山一証券経済研究所を経て1998年大和総研入社。2003年から2010年まで北京駐在。専門は中国マクロ経済、株式市場制度。近著(いずれも共著)に『中国改革の深化と日本企業の事業展開』(日本貿易振興機構)、『中国資本市場の現状と課題』(資本市場研究会)、『習近平時代の中国人民元がわかる本』(近代セールス社)、『最新 中国金融・資本市場』(金融財政事情研究会)、『これ1冊でわかる世界経済入門』(日経BP社)など。
筆者の大和総研でのレポート・コラム

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

クルスク州に少数のウクライナ兵なお潜伏、奪還表明後

ビジネス

ノルウェーのエクイノール、米風力事業中止で数十億ド

ワールド

北朝鮮、ロシア国境の架橋着工を評価 経済関係強化へ

ビジネス

トランプ氏、米経済縮小は「バイデン氏のせい」 関税
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 4
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 5
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 6
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    中居正広事件は「ポジティブ」な空気が生んだ...誰も…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 7
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 8
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 9
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 10
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story