コラム

止まらない中国株安、底入れの近道は?

2016年01月27日(水)17時53分

 しかし、グローバルな株式市場にとって、中国の株価下落が中国経済にさほど大きな影響は与えない、という話はあまり意味がありません。「世界第二位の経済大国の株価が急落している」という事実と、「どんな株価対策を講じても株価の下落が続く⇒中国政府は経済へのマクロコントロール能力さえ失ったのではないか?」との疑心暗鬼がグローバルマーケットの下押し要因となっています(もちろん、原油価格急落による株式市場からのオイル・マネー引き揚げなども材料となるなど、中国要因だけではありませんが)。

景気対策に有効な手だてとは

 中国政府に求められるのは、まずは、株式市場を制御することはできないとの前提に立って、マーケットに真摯に向き合うこと、具体的には、効果のない株価対策にコストを費やすことをやめ、市場を歪める政策対応で混乱を長引かせるのをやめることです。そして、景気対策をしっかりやって、景気減速に歯止めをかけることが最も重要です。短期的にせよ、景気が上向くという状況が作り出せれば、中国政府によるマクロ経済コントロール能力は失われていない、景気対策は有効であるということを内外に示すことができるでしょう。

 例えば、昨年12月の経済工作会議では、2016年の経済政策運営方針が話し合われ、「過剰不動産在庫の削減」が重要政策のひとつとなりました。同会議は、農民工(出稼ぎ農民)の市民化加速を通じて需要を拡大するとしましたが、これは、これまで住宅購入層として蚊帳の外に置かれていた人々が住宅購入の支援対象となることを意味しています。住宅実需増加の面で注目される政策です。過剰不動産在庫の消化が地方都市でもある程度進展すれば、大都市で先行するであろう不動産開発投資の回復に力強さが増していくことが期待されます。不動産開発投資は固定資産投資の2割弱を占め、鉄鋼、セメントなど裾野産業が広いという特徴があります。さらには、技術力向上のためのR&D(研究開発)投資や、人々の生活の質的向上に寄与する環境保護投資など、増やして良い(増やさなければならない)投資分野はまだ残されています。

 景気が底打ちすれば、株式市場のムードも好転していくと考えています。それがうまくいくまでは、「中国リスク」が世界の株式市場の波乱要因のひとつになり続けることになるでしょう。

プロフィール

齋藤尚登

大和総研主席研究員、経済調査部担当部長。
1968年生まれ。山一証券経済研究所を経て1998年大和総研入社。2003年から2010年まで北京駐在。専門は中国マクロ経済、株式市場制度。近著(いずれも共著)に『中国改革の深化と日本企業の事業展開』(日本貿易振興機構)、『中国資本市場の現状と課題』(資本市場研究会)、『習近平時代の中国人民元がわかる本』(近代セールス社)、『最新 中国金融・資本市場』(金融財政事情研究会)、『これ1冊でわかる世界経済入門』(日経BP社)など。
筆者の大和総研でのレポート・コラム

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