コラム

緩やかな人民元安か暴落か、2つの可能性

2015年12月16日(水)17時00分

 8月11日の人民元の対ドル中間レートは1ドル=6.2298元と発表され、10日の中間レート6.1162元からは1.9%の元安となりました。8月13日の中間レートは1ドル=6.4010元と、3日間累計の下げ幅は4.7%に達しました。この背景には、基準値と前日終値との間にあるギャップを埋める意図があったのです。実際、8月13日に開催された中国人民銀行による記者会見では、「従来、人民元の中間レートと市場レートには3%程度の乖離があった」とし、「この乖離の是正は既に基本的に完了した」と明言しました。

 景気減速などを背景に元安に振れようとする為替市場に対して、「乖離の是正は既に基本的に完了した」として「当面はこれ以上の人民元安は望まない」と宣言したに等しい中国人民銀行は、「元買い(ドル売り)介入」でこれに対応しました。為替介入資金はかつてない規模となったとみられています。中国の外貨準備は2014年6月末の3兆9,932億ドルをピークに減少傾向にありますが、2015年8月は過去最大となる939億ドルの減少を記録し、8月~11月の4ヵ月では2,130億ドルの減少となりました。この間に貿易黒字が大きく増加していたことを考えると、為替市場で相当大規模な元買い・ドル売り介入が実施されたとみられます。元安阻止のコストは極めて大きいと言わざるを得ません。

「管理された」変動相場制は続く

 12月1日に行われた易網・中国人民銀行副総裁の記者会見では、SDRへの採用が決まったことで今後の人民元レートはどうなるのか(元安が大きく進展するのではないか)、さらには当局による介入は大きく減るのか (為替レートの決定を市場に任せるのか)といった質問が相次ぎました。これに対して易網・副総裁は、「中国経済は中高速成長が続いており、貿易収支は大幅な黒字で、外貨準備も豊富である。これらの要素は人民元が持続的に下落する基礎がないことを示している」、「我々の長期目標は変動相場制への移行であり、それが実現する頃には為替介入は極めて少なくなっていよう。しかし、我々が現在採用しているのは管理された変動相場制であり、市場安定化を目的にある程度の介入を行う」、「IMFは我々の為替レート形成のメカニズムを変えることは要求していない」、などと回答し、為替介入を伴う「管理された」変動相場制が相当程度続くことを示唆しました。

 足元では元安が再び進展しています。12月15日の対ドル中間レートは1ドル=6.4559元となり4年ぶりの元安となりました。計算方法変更前の8月10日の6.1162元からは5.6%の元安です。これが、当局が為替介入を減らした結果であれば、私は高く評価したいと思います。

プロフィール

齋藤尚登

大和総研主席研究員、経済調査部担当部長。
1968年生まれ。山一証券経済研究所を経て1998年大和総研入社。2003年から2010年まで北京駐在。専門は中国マクロ経済、株式市場制度。近著(いずれも共著)に『中国改革の深化と日本企業の事業展開』(日本貿易振興機構)、『中国資本市場の現状と課題』(資本市場研究会)、『習近平時代の中国人民元がわかる本』(近代セールス社)、『最新 中国金融・資本市場』(金融財政事情研究会)、『これ1冊でわかる世界経済入門』(日経BP社)など。
筆者の大和総研でのレポート・コラム

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