コラム

広島サミットを迎える日本政府とメディアの「勘違い」には注意が必要

2023年05月17日(水)15時15分

バイデンが出席できるかはまだまだ不透明 Everlyn Hockstein/REUTERS

<米大統領の被爆地訪問には、米保守派から批判が出ることも想定しておくべき>

広島G7サミットが近づいてきました。岸田首相にとっては、自分が首相になって地元の広島でサミットを開催するのは宿願であったと思います。広島の地から、自分が主導して核軍縮のメッセージを発信し、またロシアの核威嚇に対してG7が結束して反対することで、歴史に名を残すという狙いもあるでしょう。それだけでなく、国内の支持をより高めてあわよくば総選挙に打って出ようというのですから、相当な力が入っていることと思います。

熱意があるのは良いのですが、首相やその周辺、あるいは日本での報道の中で、G7に関する「勘違い」があるのは困ります。4点、気になることを確認したいと思います。

1点目はバイデン大統領の出席についてです。確かに大統領は自身の口から「参加する予定だ」と述べています。ジャンピエール報道官も「17日出発」と明言し、さらに18日には「日本の後の豪州訪問はキャンセルするが、G7には行く」としています。ですが、こうした発言だけを受けて、バイデンは「必ず来る」という断定的な報道を続けるのには慎重であるべきです。

というのは、アメリカにおける「債務上限問題」は未解決のままで、そんな中で、共和党との交渉を中断してG7に出るのが是か非かは、大統領としてギリギリの判断になるからです。万が一の「リモート参加」という可能性も、まだ完全には排除できないということは認識すべきです。「本当に来るまで」報道にはある種の慎重さが必要ですし、途中退席の可能性も想定しておいた方が良いと思います。

2点目は「おもてなし」です。G7会場の広島だけでなく、各分野のG7閣僚会議が全国各地で行われています。現地では、それぞれに土地の名産を振る舞って話題作りと町起こしに役立てようと、最大限の「饗応」をしているようです。そこには、この機会を逃すまいという必死さすら感じます。ですが、G7というのは実務の場です。そこで華美な接遇をするというのは、逆効果もあるということを知るべきです。

「過度」のおもてなしが批判を浴びた過去も

例えば、トランプ前大統領に、当時の安倍首相が「黄金のゴルフクラブ」を贈呈したことがあります。在日米軍の引き揚げとか、極端な保護主義政策などを「押し付けられる」危険を感じた安倍首相としては、「国難の回避」のために、知恵を絞ってプレゼントを選択したのは当然と思います。ですが、この「贈り物」は外国による不当な金品の贈与だと批判されて、後に返却されてしまっているのです。

レーガン大統領といえば、20世紀後半の大統領の中では、特に人気の高い大統領で、その葬儀が2004年に行われた際には、メディアは故人への賛辞一色となりました。ただ、その際に唯一の汚点だと言われたのが、当時の中曽根首相がレーガンを、個人の別邸「日の出山荘」に招いて一緒に座禅を組むなどの接遇をしたことでした。異教の宗教儀式を強要したということよりも、必要以上に華美な接遇という印象を持たれたのが理由です。

G7に関しては、2008年の洞爺湖サミットにおける配偶者プログラムで、首脳夫人を集めて「茶席」が設けられたことは、G7諸国などのメディアから批判を浴びました。配偶者プログラムが国際社会における問題解決など社会的な意味から離れた、まるで貴族の社交のようなことをしているとして叩かれたのです。今回の配偶者プログラムについては、岸田裕子夫人がジル・バイデン夫人と綿密な下打ち合わせをしていますので、そのような「失態」は起きないと信じています。

3点目は、原爆の問題です。アメリカの世論の中には、今でも悲惨な本土決戦を回避し、ソ連に対する軍事的優位を見せて東西対決を避けるために、核攻撃は不可避だったという意見があります。日本としては認められない考え方ですが、そうした意見があるのは否定できない事実です。それ以上に、大統領という国の代表が、外国に対して頭を下げることに怒りを感じる層もあります。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

メキシコ当局者、中国EV現地生産に優遇策適用せず 

ワールド

WHOと専門家、コロナ禍受け「空気感染」の定義で合

ワールド

麻生自民党副総裁22日─25日米ニューヨーク訪問=

ワールド

米州のデング熱流行が「非常事態」に、1カ月で約50
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の衝撃...米女優の過激衣装に「冗談でもあり得ない」と怒りの声

  • 3

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離れ」外貨準備のうち、金が約4%を占める

  • 4

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 5

    中ロ「無限の協力関係」のウラで、中国の密かな侵略…

  • 6

    「イスラエルに300発撃って戦果はほぼゼロ」をイラン…

  • 7

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 8

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 9

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 10

    紅麴サプリ問題を「規制緩和」のせいにする大間違い.…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体は

  • 4

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 5

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 8

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 9

    帰宅した女性が目撃したのは、ヘビが「愛猫」の首を…

  • 10

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story