コラム

統一地方選に「統一感」はなくて良いのか?

2023年03月29日(水)15時00分

統一地方選で「統一した争点」というものは見えないが minokku/iStock.

<経済衰退、人材不足、農林水産業の存続は困難......日本の地方はどこも構造的に大きな問題を抱えている>

統一地方選が進行中ですが、個別の知事選、市長選などが話題になる以外には、選挙に「統一感」がありません。個々の選挙はバラバラに戦われており、全国的な政治的な意味合いというのは、強く感じられないのです。

例えば、岸田首相の求心力について、閣僚辞任が相次いだ2022年の秋には、「このままでは統一地方選が戦えない」などという言い方で、首相の責任を問う声がありました。ですが、そこに政策的な争点というものはなく、漠然と「内閣の印象が悪いと全国各地で自民党の候補が苦戦する」という印象論が広まっていただけです。

また、この間、インフレの進行にともなって、困窮世帯への給付が検討されています。ですが、これも「格差是正やインフレ対策」が統一地方選の争点になっており、政権与党としては、これに対して先手を打ったわけではありません。この給付問題も、漠然と自民党候補の「追い風」になればという印象論、あるいは印象に訴える選挙戦術というカテゴリを出ないと思われます。

つまり、今回の統一地方選には、統一という名はあっても、実際には全国で「統一した争点」や「政策の選択肢」というものは見えないのだと思います。

もちろん、年を追うごとに「統一選挙」の意味合いが薄れているのも事実です。リコールや辞職が発生したことで、首長の多くはサイクルが統一地方選に合わなくなっています。また、70年代の、いわゆる「保革対立」のように地方選挙が中央の党勢に影響するわけでもありません。

ですから、結局のところ、今回の「統一」地方選挙というのは、個別の選挙がそれぞれの争点か、あるいは現職の統治能力の信任投票として行われる、それこそ「バラバラ地方選」になっているというわけです。

実際には「バラバラ地方選」

もちろん、地方自治というのは、それぞれの自治体の独立性を重視して初めて成り立つわけです。ですから、無理に統一感を出すのではなく、バラバラの選挙がたまたま4年の一度の4月に行われるとしても、そこに問題があるわけではありません。

ですが、日本の「地方」では、多くの深刻な問題があるのが現実です。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

NY外為市場=円が軟化、介入警戒続く

ビジネス

米国株式市場=横ばい、AI・貴金属関連が高い

ワールド

米航空会社、北東部の暴風雪警報で1000便超欠航

ワールド

ゼレンスキー氏は「私が承認するまで何もできない」=
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 6
    「衣装がしょぼすぎ...」ノーラン監督・最新作の予告…
  • 7
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 8
    中国、米艦攻撃ミサイル能力を強化 米本土と日本が…
  • 9
    【世界を変える「透視」技術】数学の天才が開発...癌…
  • 10
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 6
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 7
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 8
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 9
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story