コラム

新型iPhone発表を日本はもっと悔しがれ!

2022年09月13日(火)17時45分

7日のイベントでゲストに公開された新型iPhone Carlos Barria-REUTERS

<スマホの登場は、固定電話、音楽再生プレーヤー、ビデオカメラにとどまらず、多くのエレクトロニクス製品をジャンルごと消滅させた>

今年も9月となり、すっかり恒例となったアップル社による新型iPhoneの発表会が行われました。2007年に初期型が発表されてから15年が経過し、ほぼ毎年のようにハードのアップデートを繰り返した結果、今回発表されたモデルは「iPhone 14」です。

このスマホというカテゴリですが、仮に1970~90年代の人が、現代にタイムスリップして来たら、「極めて高性能な小さな箱型のエレクトロニクス製品が、全世界で大量に売れている」のを見て、それが「日本製ではない」ことに驚くに違いありません。と言いますか、アメリカで設計されて、台湾企業の管理のもと中国で最終的に組立てられた、などと言われても瞬時には信じないでしょう。当時は、最終消費者向けのエレクトロニクス製品といえば、多くのジャンルで日本製品がほぼ市場を席巻していたからです。

そう考えてみると、今更ではありますが、日本の経済界は新型iPhoneが発表されるたびに、もっと悔しがっても良さそうなものです。理由としては3つあります。

日本の経済史の一大事件

1つは、スマホというデバイスは、多くのエレクトロニクス製品を統合しており、反対にそれらの製品のジャンルを潰してしまったからです。具体的には、固定電話、コードレスホン、トランシーバ、音楽再生プレーヤー、ゲーム機、卓上テレビ、デジカメ、ビデオカメラ、ファックス機器、カーナビといったメジャーなものから、コンパス、電卓、懐中電灯、巻尺などといったアクセサリ、更にはアプリを利用することで多くのジャンルの製品を包摂しています。また付属品とも言える専用のウォッチを絡ませると、腕時計や医療機器の一部、トレーニング管理マシン、緊急警報装置までも含むことになります。

つまり、iPhoneが提案したスマホというビジネスモデルのために、かつて日本が幅広い市場を持っていた消費者向けのエレクトロニクス製品の多くが、その製品のジャンルごと消滅したのです。これは日本の経済史にとって大きな事件であり、反転攻勢は無理にしても、少なくとも悔しがるぐらいのことはあってもいいのにと思います。

2つ目は、その結果として、日本の多くの企業は最終消費者向けのエレクトロニクス製品という産業から撤退してしまいました。企業によっては消滅したものもありますし、民生用を諦めて政府や企業向けのビジネスに転換した企業、あるいはエンタメと金融を主力としてエレクトロニクス関係は副業にするなど、大きな影響を受けたのです。

3つ目は、日本は技術力で負けたのではないということです。その証拠に、今回のiPhone14においても、依然として日本の発明や製造による部品や、素材は多数使われているからです。問題は、ソフトは別としても、技術分野で遅れを取ったのではなく、経営力、資金力、英語による幅広いビジネス実行力、つまりマーケティング、契約、法務、ロジスティクス、情報と知財の管理などの分野で敗北したのです。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

英、湾岸貿易協定「近く合意」 財務相が期待表明

ビジネス

アマゾン、インド販売業者の輸出総額200億ドル突破

ビジネス

株価が高市政権への期待ならば、政策に全力で取り組む

ワールド

情報BOX:韓国で開催される米中首脳会談の主要課題
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 2
    庭掃除の直後の「信じられない光景」に、家主は大ショック...ネットでは「ラッキーでは?」の声
  • 3
    「平均47秒」ヒトの集中力は過去20年で半減以下になっていた...「脳が壊れた」説に専門家の見解は?
  • 4
    熊本、東京、千葉...で相次ぐ懸念 「土地の買収=水…
  • 5
    「信じられない...」レストランで泣いている女性の元…
  • 6
    中国のレアアース輸出規制の発動控え、大慌てになっ…
  • 7
    楽器演奏が「脳の健康」を保つ...高齢期の記憶力維持…
  • 8
    「宇宙人の乗り物」が太陽系内に...? Xデーは10月2…
  • 9
    シンガポール、南シナ海の防衛強化へ自国建造の多任…
  • 10
    「死んだゴキブリの上に...」新居に引っ越してきた住…
  • 1
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 2
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 3
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 4
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した…
  • 5
    超大物俳優、地下鉄移動も「完璧な溶け込み具合」...…
  • 6
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 7
    熊本、東京、千葉...で相次ぐ懸念 「土地の買収=水…
  • 8
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 9
    【2025年最新版】世界航空戦力TOP3...アメリカ・ロシ…
  • 10
    シンガポール、南シナ海の防衛強化へ自国建造の多任…
  • 1
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 2
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 9
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story