コラム

新型iPhone発表を日本はもっと悔しがれ!

2022年09月13日(火)17時45分

他にもあると思いますが、こうした点を考えると、スマホの登場による消費者向けエレクトロニクス産業の「喪失」という事件について、やはり日本は「悔しがり方」が足りないということは言えると思います。もっと言えば、日本の経済が低迷し、賃金が上がらないことの原因の1つと考えることもできます。

それはともかく、今回のiPhone新製品発表では、更に2つの傾向が見て取れる点が、非常に気になりました。1つは、そもそもは電卓からLSI技術のCPUについてはパイオニアであり、一時期は移動体通信やデジカメでも健闘していた日本のカシオ社が得意としていた「冒険家用のコンセプトによる腕時計」というジャンルにアップル社が一気に攻勢をかけて来たということです。

もう1つは、円安が進む中で、新製品の円建て価格が大きく上昇したことです。長年アップル社が重視してきた日本市場が、他でもないそのアップル製品に対する購買力すら失っていくとしたら、これも決して前向きのエピソードとは言えません。

もちろん、今からiPhoneの後を追ってスマホのビジネスに対して官民挙げて巨大な投資をするというのは愚策と思います。むしろ、日本の経済界全体としては、ハードウェア製品という「モノ」にこだわる旧世代を一斉退場させ、高い教育水準を誇る人口を、「目に見えない論理」つまりソフトウェアの領域に最適化しつつ、21世紀らしいビジネスで高付加価値産業を再建すべきと思います。そのためにも、スマホビジネスという戦場における「失敗の原因」については悔しがりつつ総括することは必要だと思います。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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