コラム

バイデン失言、その真意を真面目に考える必要はあるか?

2022年05月25日(水)13時30分

訪日中の23日、日米首脳会談を終えて会見するバイデン Jonathan Ernst-REUTERS

<アメリカのインフレが今後も続けば、米経済全体が不況に突入する展開も考えられる>

5月23日、来日中のバイデン大統領は、共同記者会見での質問に答える形で、「台湾で紛争が起きた場合には、アメリカが軍事的関与する」という発言をしました。中国は即座に反発している一方で、日本の保守派からは「最高の失言」だなどという意味不明の「評価」も出ています。

もちろん、米国務省としては「一つの中国」という建前を崩すという意味では「ない」という火消しというか、弁解が出ています。ですが、今回の発言はさすがに踏み込んだものであって、何らかの意味なり意図を解読する必要はありそうです。

私は今でも、バイデン政権の抱えている最大の問題は「インフレへの米国民の怒り」だと考えています。ですから、今は対中包囲網などの外交ゲームをしている場合ではなく、(a)中国にロシア・ウクライナ戦争の停戦仲介をさせ、原油価格を劇的に下げる、(b)中国と協調して物流混乱を解決、(c)中国のウィズコロナ政策転換を支持・支援する、という「臨時の対中宥和を行うべきタイミングと考えています。

どう考えても、今のままでは、インフレが沈静化せず、さらにインフレが需要を冷やして全体が不況に陥る「スタグフレーション」に進む、そして全面的な株安がこれに伴うという「悪夢のシナリオ」も考えられます。そうなれば、今年11月の中間選挙も、24年の大統領選挙も戦いようがありません。

中国とは向き合わないバイデン

ですが、バイデンはこの戦略、つまり中国と向き合ってインフレ退治を行う政策を取っていません。そればかりか、日米、米韓、QUAD(日米豪印戦略対話)、IPEF(インド太平洋経済枠組み)と中国囲い込みに躍起となり、さらに「大失言」までやらかしたわけです。そこに仮に真剣な意図なり意味があるとしたら、一体それは何なのでしょうか?

(1)まず、自分はトランプが破壊した「同盟関係を再構築」しなくてはならないと思い詰めている可能性があります。NATOの結束は、図らずもウクライナ情勢によって実現していますが、アジアに関しても日米韓、そして豪州とインドとの同盟をしっかり確認したいし、それが公約の実現になると固く信じているのかもしれません。

(2)対中国で弱腰だと、選挙に負けるという思い込みの可能性もあります。ウクライナ情勢によって、時代は大きく変化しているにもかかわらず、軍事外交で「弱さ」を見せたくない、インフレと株安を放置しても対中強硬でいくというわけです。今年11月の中間選挙や24年の大統領選を見据えた場合に、他のチョイスはないと思っているのかもしれません。

(3)11月の中間選挙までロシア・ウクライナ戦争が泥沼化していた方が、選挙に勝てるという「腹黒い思惑」の可能性もあるでしょう。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

香港の大規模住宅火災、ほぼ鎮圧 依然多くの不明者

ビジネス

英財務相、増税巡る批判に反論 野党は福祉支出拡大を

ビジネス

中国の安踏体育と李寧、プーマ買収検討 合意困難か=

ビジネス

ユーロ圏10月銀行融資、企業向けは伸び横ばい 家計
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 3
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 4
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 5
    7歳の娘の「スマホの検索履歴」で見つかった「衝撃の…
  • 6
    がん患者の歯のX線画像に映った「真っ黒な空洞」...…
  • 7
    ミッキーマウスの著作権は切れている...それでも企業…
  • 8
    ウクライナ降伏にも等しい「28項目の和平案」の裏に…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    あなたは何歳?...医師が警告する「感情の老化」、簡…
  • 1
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 2
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 5
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 6
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 7
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 8
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 9
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ…
  • 10
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story