コラム

自民党総裁選、3つのサプライズ

2021年09月15日(水)15時00分

今回の総裁選では多くの派閥が実質的な自主投票を決めている(写真は河野氏の出馬表明会見) Issei Kato-REUTERS

<過去の総裁選と比較すると、ネットの反応などもあってかなり民意を反映した政策論争になっている>

アメリカから自民党総裁選を見ていると、いつも「本格的な」つまり全支持者の参加による「予備選」と比べて見劣りがするように思ってきました。派閥の談合で総裁が決まったり、地方のボスを押さえることが大切とされたりといった、民主主義としては未成熟な部分が目立ったこともあります。また、勝負にこだわって政策論争が疎かになるという印象も拭えませんでした。

それよりも、全体としてあくまで「政党という私的な団体内部のリーダーの人選」という位置付けであり、従ってルールが微妙に変化したり、フルスペック選挙があったりなかったりするため、どうしても真剣味に欠けるというイメージもありました。

ところが、今回の自民党総裁選は、そうしたイメージを覆しつつあるように思います。事前には考えられなかった3つのサプライズが進行しているからです。

1つ目は、政策論争が機能しているということです。私は、最初からこの総裁選の注目点はエネルギー政策と、財政金融政策だと思っていました。この点に関して、例えば核サイクルの問題、プライマリーバランス維持の問題など、国の将来を左右する重要な論点が浮上しつつあり、望ましい展開になっています。

高市早苗氏などは、最初は保守イデオロギーを前面に出したイメージ選挙を狙うような構えでしたが、例えばロックダウン法制については、拙速に進めるのではなくエボラ(出血熱)級の致死性の高い感染症に備えるという中期的な政策論を繰り出してきました。また敵基地攻撃論なども、当初は相当に物騒でイメージ的な議論だったのが、北朝鮮のミサイルに対する抑止力をめぐる実務的な論争になっています。

河野太郎氏は、脱原発の信念を曲げているなどという評価がありますが、条件付きの再稼働を視野に入れつつ、核サイクルの問題には日米原子力協定を踏まえて厳しい姿勢を取るなど、かなり重要な論争を提起していると思います。

全体的に、衆参両院の選挙では、野党か与党かというチョイスの中で、現実とは乖離した中で大ざっぱな選択をさせられるわけであり、議論も抽象的になりがちでした。ですが、自民党の党内の選挙となると実行可能な幅の中で、かなり具体的な政策の議論ができているように思えます。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米耐久財コア受注、3月は0.2%増 第1四半期の設

ワールド

ロシア経済、悲観シナリオでは失速・ルーブル急落も=

ビジネス

ボーイング、7四半期ぶり減収 737事故の影響重し

ワールド

バイデン氏、ウクライナ支援法案に署名 数時間以内に
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴らす「おばけタンパク質」の正体とは?

  • 2

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗衣氏への名誉棄損に対する賠償命令

  • 3

    マイナス金利の解除でも、円安が止まらない「当然」の理由...関係者も見落とした「冷徹な市場のルール」

  • 4

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 5

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 6

    ケイティ・ペリーの「尻がまる見え」ドレスに批判殺…

  • 7

    イランのイスラエル攻撃でアラブ諸国がまさかのイス…

  • 8

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    コロナ禍と東京五輪を挟んだ6年ぶりの訪問で、「新し…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 10

    ダイヤモンドバックスの試合中、自席の前を横切る子…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story